この記事では研究ビザを取得するための条件である「在留資格該当性」と「上陸許可基準適合性」について解説します。
「在留資格該当性」と「上陸許可基準」については、在留資格認定証明書や在留期間更新の一般要件をご確認ください。
外国人が取得したい在留資格が本当に取得できるのか否か、また要件に適合せずに取得できない場合は、日本での在留を諦めるのではなく他の在留資格の要件に適合するか否か、これらを考える上で実務上はまずこの「在留資格該当性」と「上陸許可基準適合性」を正確に把握して検討を進めなければなりません。
研究ビザについて法で定められた「在留資格該当性」と「上陸許可基準適合性」の解説に進めます。
研究ビザの「在留資格該当性」
まず入管法別表第1の2に定める法文は下記の通りです。
本邦の公私の機関との契約に基づいて研究を行う業務に従事する活動(一の表の教授の項の下欄に掲げる活動を除く。)
用語の定義・解説
該当範囲
考え方としては、下記の機関を除く日本の公私の機関との契約に基づき行う研究活動が該当します。(下記は教授ビザが該当)
- 大学、大学院、短期大学
- 大学に準ずる機関
- 高等専門学校
具体的には下記の方が該当します。
- 研究公務員に任用される者
- 国連地域開発センターが招聘する外国人研究員
- 文部科学省STAフェローシップ制度により受け入れられる外国人研究員
- 文部科学省実施の原子力関係管理者研修に参加する者
- 文部科学省実施の原子力研究交流制度に基づいて招聘される者
- その他、研究・調査・試験を行う者
「公私の機関」とは
公私の機関は、専ら研究することを目的とする事業を営んでいる必要はありません。
例えば、研究機関ではない一般企業であっても、企業が目的とする業務遂行に資する為の「基礎的」・「創造的」な研究をする活動も研究ビザに該当します。但し、「基礎的」・「創造的」と認められず、一般企業が目的とする業務遂行に直接資するような研究活動の場合には技術・人文知識・国際業務ビザが該当することになります。
また、「本邦の公私の機関」には「継続性」と「適正性」が要求されます。
外国人がビザを認定される為には、当該外国人が指定される在留期間にわたって継続的かつ適正に活動をする事が見込まれなければなりません。従って、この事は外国人が契約する「本邦の公私の機関」に対しても継続性・適正性が要求される根拠となります。
「継続性」の立証のためには、当該機関の売上や利益、法人か個人か等の組織形態、従業員数や資本金などの組織規模、設立年数等の観点が重要です。
「適正性」については、必要とされる許認可を保有している事や、違法行為や不正行為を行っていないことが必要です。もし過去に不正行為等で行政指導を受けたことのある機関の場合は、再発防止策を講じて二度と発生させない体制になっていること等を立証しなければなりません。
「契約」とは
「契約」には、雇用のほか、委任、委託、嘱託等が含まれます。また派遣契約や請負契約も含まれます。
招勝機関以外の機関において就労する場合は、派遣契約書・業務委託契約書など、その根拠となる契約書が必要です。また派遣先等の機関の概要を明らかにする資料の提出も必要となります。
但し、どんな契約でも継続的な契約でなければなりません。従って短期間の派遣契約等の場合は不許可となる可能性が高くなりますので、派遣契約書に自動的な更新条項を盛り込むなどして、継続的であることを立証しなければなりません。
さらに派遣等の場合は、派遣先において担当する業務内容が在留資格該当性を満たすものか否かが審査されます。複数の派遣先に派遣されることも問題ありませんが、申請時において、派遣先・派遣期間・予定職務が確定しており、かつ常勤職員として雇用されるものである必要があります。また、派遣元が労働者派遣法に基づく許認可を受けている事が必要な事は「適正性」のところで述べた通りです。
なお、外国人自身が日本の公私の機関と直接契約しなければなりません。日本の機関と外国人の方が所属する外国の機関の契約に基づいて研究を行う業務に従事する活動の場合、研究ビザは認められません。(技術・人文知識・国際業務ビザの場合は、機関同士の契約でも一定条件下で認められます。)
「研究を行う業務」とは
「研究を行う業務」は、研究だけに限らず、研究のための試験・調査等の業務も含まれます。
他のビザとの境界
「教授」と「研究」
前述したとおり、大学・大学に準ずる機関・高等専門学校で研究を行う場合は教授ビザが該当する。
研究ビザはそれ以外の機関において研究活動を行う場合とお考えください。
「技術・人文知識・国際業務」と「研究」
前述したとおり、研究を事業の専らの目的とする研究機関ではない一般企業で従事する活動の場合、当該一般企業が目的とする業務遂行に、「直接資する研究」か、「基礎的・創造的な研究」かによってビザが異なります。
前者なら技術・人文知識・国際業務ビザが、後者なら研究ビザが該当することになります。
専ら研究を目的とする機関以外の機関において,当該機関の業務の遂行に直接資す
る研究活動に従事する点において,「研究」の在留資格の活動と異なる。
「文化活動」と「研究」
研究活動に従事する場合でも報酬を伴わない場合には、文化活動ビザが該当します。
ここで、「報酬とは」について注意が必要です。
研究に従事するために入国した外国人の方の生活費やその他実費等に対する手当等の場合には報酬には含みません。例えば、「日中笹川医学研究者制度」により招聘される外国人の方は、月額11万円程度が支給されますが、文化活動ビザを決定する取扱いとなっています。
「特定活動告示36号」と「研究」
高度の専門知識を要する特定分野に関する研究・研究指導・教育に従事する活動の場合、または、これらの活動に関連する事業の経営の場合、要件を満たせば、特定活動ビザが認められます。
研究ビザの「上陸許可基準適合性」
研究ビザの上陸許可基準について、基準省令本文、1号~2号について、それぞれに分けて解説します。
基準省令本文
基準省令本文に定められている法文は下記の通りです。
申請人が次のいずれにも該当していること。ただし、我が国の国若しくは地方公共団体の機関、我が国の法律により直接に設立された法人若しくは我が国の特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人、我が国の特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する法人若しくは独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。以下同じ。)又は国、地方公共団体若しくは独立行政法人から交付された資金により運営されている法人で法務大臣が告示をもって定めるものとの契約に基づいて研究を行う業務に従事しようとする場合は、この限りでない。
法文の整理
基準省令本文には、原則1号と2号の両方に該当する事として要件を定めています。除外されるのは、下記の機関と契約により研究活動に住する場合です。
- 「我が国の法律により直接に設立された法人若しくは我が国の特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人」
- 「我が国の特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する法人」
- 独立行政法人
- 国,地方公共団体若しくは独立行政法人から交付された資金により運営されている法人で法務大臣が告示をもって定めるもの
解説
「我が国の法律により直接に設立された法人若しくは我が国の特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人」とは
特殊法人のことを指します。
「我が国の特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政官庁の認可を要する法人」とは
認可法人のことを指します。
「告示をもって定めるもの」とは
下記の期間が該当します。
- 公益財団法人大阪バイオサイエンス研究所
- 一般財団法人石炭エネルギーセンター
- 財団法人石炭利用総合センター
- 社団法人農林水産・品産業技術振興協会
基準省令1号
基準省令1号に定められている法文は下記の通りです。
一 大学(短期大学を除く。)を卒業し若しくはこれと同等以上の教育を受け若しくは本邦の専修学校の専門課程を修了(当該修了に関し法務大臣が告示をもって定める要件に該当する場合に限る。)した後従事しようとする研究分野において修士の学位若しくは三年以上の研究の経験(大学院において研究した期間を含む。)を有し、又は従事しようとする研究分野において十年以上の研究の経験(大学において研究した期間を含む。)を有すること。ただし、本邦に本店、支店その他の事業所のある公私の機関の外国にある事業所の職員が本邦にある事業所に期間を定めて転勤して当該事業所において研究を行う業務に従事しようとする場合であって、申請に係る転勤の直前に外国にある本店、支店その他の事業所において法別表第一の二の表の研究の項の下欄に掲げる業務に従事している場合で、その期間(研究の在留資格をもって当該本邦にある事業所において業務に従事していた期間がある場合には、当該期間を合算した期間)が継続して一年以上あるときは、この限りでない。
法文の整理
本号は経歴要件について定めています。
下記の者が要件に適合します
- 大学を卒業 + 3年の研究経験
- 大学と同等以上の教育を受けた + 3年の研究経験
- 告示要件に該当する専修学校専門課程を修了 + 3年の研究経験
- 10年の研究経験
- (転勤者の場合は)転勤前に転勤元で1年以上研究活動をしていたこと
用語の定義・解説
「大学、大学と同等以上」とは
大学の他にも、大学院・大学の別科・大学の専攻科・大学付属研究所等が含まれます。
上記は日本に限らず、外国のものでも構いません。
なお、短期大学の場合は認められません。
「専修学校の専門課程」とは
専修学校の課程は、専門課程・高等課程・一般課程と分かれていますが、研究ビザが認められているのは専門課程のみです。以下、参考に各課程について説明します。
専門課程
高等学校又はこれに準ずる学校を卒業した者等に対して、高等学校における教育の基礎の上に教育を行う過程であって、いわゆる「専門学校」がこれにあたります。
高等課程
中学校又はこれに準ずる学校を卒業した者等に対して、中学校における教育の基礎の上に教育を行います。当該課程を置く専修学校は「高等専修学校」と呼ばれています。
文部科学省の指定を受けた高等専修学校でかつ、修業年限3年以上を修了した者の場合は、大学への進学が可能となります。
一般課程
高等課程又は専門課程の教育以外の教育を行う過程です。
「告示をもって定める要件」とは
「出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令の専修学校の専門課程の修了に関する要件を定める件」(平成23年法務省告示第330号)の第1号に定められている、高度専門士の称号を受けた者であることを意味します。
基準省令2号
基準省令2号に定められている法文は下記の通りです。
二 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
用語の定義・解説
「報酬」とは
報酬は、奨学金等の名称である場合も含まれます。名目は関係ありません。
ここでいう「報酬」は、役務の給付の対価であり、通勤手当・住宅手当などの実費弁償は含みません。また、扶養手当についても被扶養者の有無による審査上の不平等を生じさせないため、「報酬」に含めないこととされています。
また退職金・結婚祝金・見舞金・現物給付としての住宅・食事等・制服・旅費等については、その実質が見舞金・恩恵的・福利厚生的なものは「報酬」に含まれませんが、労働協約・就業規則・労働契約等で支給条件が明らかなものは「報酬」に含まれます。
「日本人~と同等額以上」とは
基本的には申請人が契約する個々の企業に在する日本人であって同等の地位の者と比較されます。
当該企業に日本人居ない場合は、同種の職種の他の企業に在する同等の地位の日本人と比べ同等であるかで判断されます。
例えば、日本人大卒者の新入社員給与と外国人大卒者の新入社員給与を比較し、同等かどうかという事が審査されることになります。