刑事事件で起訴されてしまった外国人が、在留期限が満了してしまった場合、在留期間は更新すべきなのでしょうか?
刑事事件で起訴されれば当然不許可となると考えるのは早計です。
結論の先取り
答えは、するべき です。
前提知識として、ある一定の刑事事件において一定の重さの判決が下された場合、退去強制事由に該当してしまいます。退去強制事由に該当した場合は、結局は出国しなければなりませんので、在留期間更新許可申請をするメリットはあまりありません。
しかし、刑事事件で起訴された時点では有罪が確定しておらず、また有罪がほぼ見込まれていても刑の重さはまだ確定していません。つまり無罪判決や刑の軽さによっては退去強制事由に該当しないことになります。この場合に、もし在留期間を更新をしていなければ、退去強制事由である不法残留に該当してしまいます。つまり、せっかく刑事事件の判決で退去強制事由を免れたのにもかかわらず、在留資格を更新しなかったことによって新たな退去強制事由に該当してしまうこととなります。
従って必ず在留期間は更新しておかなければならないということになりますが、このような刑事事件に起訴されている事実は、在留期間更新許可のハードルを上げる要因となってしまうので、いくつかの留意点があります。
解説
刑事事件に起訴されても在留期間を更新すべき理由
まずどのような刑事事件がどのような刑の重さにより退去強制事由に該当するかについて簡単に紹介します。(入管法第24条第1項4号ニ~リ)
- パスポートや渡航書に係る不正を働く旅券法違反
- 刑に処せられた者
- 集団密入国の助長に係る入管法違反
- 刑に処せられた者
- 資格外活動に係る入管法違反
- 禁錮以上の刑に処せられた者
- 未成年による犯罪
- 長期三年以上の懲役・禁錮に処せられたもの
- 薬物に係る犯罪
- 有罪の判決を受けた者
- 上記以外の犯罪
- 執行猶予の言渡しを受けた者を除き、一年以上の懲役・禁錮に処せられた者
このように刑事事件の種類によって退去強制事由に該当する刑の重さが異なります。例えば、道路交通法違反で執行猶予判決を受けた方の場合は退去強制事由には該当しません。
さらにもう一つ退去強制事由になる不法残留について紹介します。
- 不法残留
- 在留期間の更新又は変更を受けないで在留期間を経過して本邦に残留する者は退去強制事由に該当する
つまり先ほどの例で、道路交通法違反で執行猶予判決を受けた方で、その起訴中に在留期間を更新せずに渡過した場合は、刑罰による退去強制事由には該当しないが、不法残留による退去強制事由に該当します。
従って、刑事事件に起訴されたとしても判決がどうなるかわからないうちは必ず在留期間更新許可申請をするようにしましょう。
在留期間更新時における留意点
そしてもう一つ考えなければならないことは、入管側は刑事事件で起訴された事実をもって、在留期間更新を不許可とする場合があるということです。
確かに在留期間更新に関する要件は、入管側がその外国人が在留する「相当性」を認める事としており、入管側が有する裁量の幅が大きいものとされています。
しかし、退去強制事由に該当しない可能性があるにも関わらず、在留期間更新を不許可とするのは妥当なのでしょうか?「退去強制されない=日本に在留し続けてもいい」いう事と「在留期間更新不許可=日本に在留し続けてはいけない」という事が矛盾していないでしょうか?
このような場合にもやはり論理的に主張するべきことが存在します。
憲法第31条-推定無罪の原則
「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」
刑事事件に起訴され有罪がほぼ見込まれるような事件でも、裁判官による有罪判決が下されるまでは無罪が推定されます。
従って、在留期間更新時においては、刑事事件に起訴されたが未だ判決は下されておらず、刑の重さも確定していない。推定無罪の原則も考慮に入た上で、在留期間更新の判断をしてほしいという事を主張した方がよいでしょう。
さらに付け加えて、退去強制事由に該当しないような判決であった場合は在留を継続できるにもかかわらず、在留期間更新が不許可とされていれば結局は退去強制事由に該当し、この不利益はあまりにも大きいという事を主張するといいでしょう。
なお、刑事事件として起訴された事実に対しての反省文と、それでも在留すべきまたはしたい理由を客観的証拠として提出するとなおよいでしょう。
東京地裁平成11年11月11日判決
「被告(入管側)は、原告(申請者)に対して、起訴がされたことから直ちに
原告が犯罪を犯したものであるとの事実を認定して、在留期間更新不許可の判断の基礎としたものではなく、(中略)客観的事実を判断の基礎として考慮したものであると認められ、この点に関する被告の判断が広く諸般の事情を総合的に勘案して行われるべきことからすれば、その判断は違法なものであると解されない。」(一部読みやすいように改訂)
つまり、裁判によれば「起訴された事実」を、考慮した様々な事情をうちの一つとして考える事は認められるが、「起訴された事実」を「犯罪をしたという事実」に発展させて判断する事は認められないと読めます。
従って、在留期間更新時においては、東京地裁平成11年11月11日判決にもあるように、起訴された事のみをもって判断せずに、様々な事情を考慮して処分を検討してほしいという事を主張すべきと考えられます。
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