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ビザの取り消しの概要

入管法第22条の4に基づき、一定の場合には、外国人の方が有するビザ(在留資格)の在留期聞が満了する前に現に有する在留資格を取り消すことができます。

処分の前には、外国人に主張・立証の機会を与えて、意見を聴取した上で取り消しを決定するとされています。

入管法第22条の4にはいくつかの取り消し要件が規定されていますが、その中でも第1項第1号又は第2号に該当する場合は、退去強制事由に該当し、強制的に日本から追い出される形になります。

それ以外の場合は、出国命令措置となり、出国のために必要な期間が指定されて自主出国を促されます。

しかし、上記のように一旦はビザ(在留資格)の取消事由に該当すると認められた場合であっても、外国人の在留状況や家族状況等を考慮して、ビザ(在留資格)を取り消さない事が妥当と判断された場合は在留の継続を認められることもあります。

なお、ビザ(在留資格)が取消された場合、ビザを前提として手続した再入国許可や資格外活動許可は当然に失効します。もちろん外国人の方が持っている在留カードも失効しますので、外国人は在留カードを入管へ返納しなければなりません。

またビザの取消し効果は、取消し処分の時点にビザを消滅させるものであり、ビザの許可を受けた時点まで遡及して取り消されるものではありません。

取消事由

取り消しの対象は入管法入管法第22条の4に規定されています。

そして対象は、入管法第22条の4第1項の規定により取り消すことができるのは、入管法別表第1・第2のビザを有するものです。特に、第6号については入管法別表第1のビザのみ、第7号は、日本人の配偶者等・永住者の配偶者等のビザのみ、第8号~第10号は、中長期在留者のみを取消し対象としています。

第1項第1号の偽りその他不正の手段により上陸許可を受けた後に、ビザ変更や更新をした場合でも、現に有するビザが取消しの対象となります。

第1項第2号~第5号は取消しの原因となるものが直近の許可に関係するものである場合に限定されています。従って、過去に取消事由に該当するような場合でも、直近の許可に関係する申請において取消事由に該当しない場合は取り消されません。

以下、各号について詳しく解説します。

第1号

法文

一  偽りその他不正の手段により、当該外国人が第五条第一項各号のいずれにも該当しないものとして、前章第一節又は第二節の規定による上陸許可の証印(第九条第四項の規定による記録を含む。)又は許可を受けたこと。

解説

これは上陸拒否事由に該当する者、つまり過去に犯罪や強制送還されて一定期間日本に入国できない者が、不正な手段で偽って、上陸拒否事由に該当していないフリをして申請し、許可を得た場合をいいます。

具体例としては、上陸拒否期間中に本国で氏名を変えてパスポートを取得したり、パスポートそのものを偽造して上陸許可を受けた場合や、覚せい剤を所持していないフリをして入国し、その後に税関で発見された場合が該当します。また再入国許可中に本国において犯罪等を犯し、上陸拒否事由に該当してしまった外国人が、その事実を隠蔽して再入国した場合も含みます。

第2号

法文

二  偽りその他不正の手段により、上陸許可の証印等(前章第一節若しくは第二節の規定による上陸許可の証印若しくは許可(在留資格の決定を伴うものに限る。)又はこの節の規定による許可をいい、これらが二以上ある場合には直近のものをいうものとする。以下この項において同じ。)の申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく、別表第一の下欄に掲げる活動又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動のいずれかに該当するものとして、当該上陸許可の証印等を受けたこと。

解説

これは在留資格該当性があるフリ、つまりビザの許可を得るための条件の1つである「在留資格該当性」に関して不正に偽って、ビザの許可を得た場合が該当します。

具体例としては、「技術・人文知識・国際業務」ビザの条件として、学術的な専門知識を要する業務に就く事という縛りがありますが、本当の目的は単純労働での入国であるにも関わらず、専門性を装って入国するような場合が該当します。他にも多い例として、日本人と偽装結婚をして「日本人の配偶者等」ビザの許可を受けた場合があります。

第3号

法文

三  前二号に掲げるもののほか、偽りその他不正の手段により、上陸許可の証印等を受けたこと。

解説

前二号、つまり第1号及び第2号に該当するものの他に、不正に偽って上陸許可を受けた場合をいいます。

上陸許可を受ける条件の1つとして「在留資格該当性」があると前記しましたが、他にも「上陸許可基準適合性」や「告示該当性」という条件もあります。これら他の条件に該当していないにもかかわらず、該当しているフリをして入国する場合が本号の対象となります。

具体例としては、「興行」ビザで入国しようとする外国人の方が、芸能活動等の経歴を偽って上陸許可を受けた場合や、その他ビザでも学歴や職歴を偽った場合が該当します。

第4号

法文

四  前三号に掲げるもののほか、不実の記載のある文書(不実の記載のある文書又は図画の提出又は提示により交付を受けた第七条の二第一項の規定による証明書及び不実の記載のある文書又は図画の提出又は提示により旅券に受けた査証を含む。)又は図画の提出又は提示により、上陸許可の証印等を受けたこと。

解説

第1号から第3号までに該当する場合以外で、事実と異なる記載のある書類の提出により上陸許可を受けた場合が該当します。

第1号から第3号については、「偽りその他不正の手段」と規定されており、これは申請人による虚偽の申請とお考え下さい。つまり、申請人が故意に偽り、事実と異なる申請であることを認識したものである必要があります。(詳細は後述)

一方、本号の「不実の記載のある文書」とは、外国人の受入機関や受入人が記載した書類に事実と異なる場合があったり、申請人が知らずに間違えて事実と異なる申請をした場合が対象となります。

具体例としては、在留資格認定証明書交付申請は本国にいる外国人ではなく日本の受入機関等が日本で申請し、証明書を取得して外国人に送付するものですが、在留資格認定証明書交付申請に不実の記載があっても外国人の方は気づきません。このような場合に本号が記載されます。

第5号

法文

五  偽りその他不正の手段により、第五十条第一項又は第六十一条の二の二第二項の規定による許可を受けたこと(当該許可の後、これらの規定による許可又は上陸許可の証印等を受けた場合を除く。)。

解説

これは、不正に偽って退去強制手続・難民認定手続・在留特別許可を受けた場合が該当します。

但し、上記許可を不正に取得して、その後に正当にビザ変更許可やビザ更新許可を受けていれば、取り消し対象となりません。あくまで直近の申請に対して不正に偽った場合が対象です。

第6号

法文

六  別表第一の上欄の在留資格をもつて在留する者が、当該在留資格に応じ同表の下欄に掲げる活動を継続して三月(高度専門職の在留資格(別表第一の二の表の高度専門職の項の下欄第二号に係るものに限る。)をもつて在留する者にあつては、六月)以上行わないで在留していること(当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除く。)。

解説

1号~5号は上陸許可に起因するものですが、本号は上陸許可自体は問題なく事後的に取消事由になる場合を規定しています。

別表第一のビザを有する外国人が対象となりますが、当該ビザを有する外国人は本来行うべき活動というものが決まっています。そしてその本来行うべき活動を正当な理由なく3ヵ月以上していない場合は在留資格取消事由に該当することになります。

正当な理由については後述します。

第7号

法文

七  日本人の配偶者等の在留資格(日本人の配偶者の身分を有する者(兼ねて日本人の特別養子(民法 (明治二十九年法律第八十九号)第八百十七条の二 の規定による特別養子をいう。以下同じ。)又は日本人の子として出生した者の身分を有する者を除く。)に係るものに限る。)をもつて在留する者又は永住者の配偶者等の在留資格(永住者等の配偶者の身分を有する者(兼ねて永住者等の子として本邦で出生しその後引き続き本邦に在留している者の身分を有する者を除く。)に係るものに限る。)をもつて在留する者が、その配偶者の身分を有する者としての活動を継続して六月以上行わないで在留していること(当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由がある場合を除く。)。

解説

「日本人の配偶者等」・「永住者の配偶者等」のビザを有し、配偶者身分の外国人の方が、本体人である日本人または永住者と離婚・死別したり、法的な婚姻関係にはある者の別居しており婚姻実体がないと認められるような場合、その状況が6ヵ月以上継続していれば、取消事由に該当することになります。

正当な理由については後述します。

第8号

法文

八  前章第一節若しくは第二節の規定による上陸許可の証印若しくは許可、この節の規定による許可又は第五十条第一項若しくは第六十一条の二の二第二項の規定による許可を受けて、新たに中長期在留者となつた者が、当該上陸許可の証印又は許可を受けた日から九十日以内に、法務大臣に、住居地の届出をしないこと(届出をしないことにつき正当な理由がある場合を除く。)。

解説

日本に上陸し、在留カードを得て中長期在留者となった場合は、上陸許可を得てから90日以内に住居地の役所で住居地の届け出をしなければなりません。

この義務を怠った場合は、取消事由に該当することになります。

届出をしないことにつき正当な理由については後述します。

第9号

法文

九  中長期在留者が、法務大臣に届け出た住居地から退去した場合において、当該退去の日から九十日以内に、法務大臣に、新住居地の届出をしないこと(届出をしないことにつき正当な理由がある場合を除く。)。

解説

前号のとおり、外国人の方は住居地の届け出義務がありますが、引越しした場合、引っ越し前の住居地を退去した日から90日以内に新住居地の役所において住居地変更届をしなければ、取消事由に該当することになります。

届出をしないことにつき正当な理由については後述します。

第10号

法文

十  中長期在留者が、法務大臣に、虚偽の住居地を届け出たこと。

解説

第8号~第9号のとおり、上陸許可を受けた後・引越しした後に住居地の届け出義務がありますが、虚偽の住居地を届け出た場合は取消事由に該当します。

補足

「偽りその他不正の手段」とは

文書偽造・虚偽記載・虚偽申立て等、申請人となる外国人が、「偽り」を認識して行う不正な行為をいいます。

また、不正な手段と許可処分に因果関係が存在しなければ取消事由には該当しません。例えば、上陸審査の判断において英語能力は問われないにもかかわらず、過去に取得した英語試験の結果を偽装して申請した場合は、当該許可と不正行為には因果関係はありません。このような場合は、取消事由には該当しないこととなります。

「当該活動を行わないで在留していることにつき正当な理由」とは

6号・7号に規定されている正当な理由とは下記のような場合をいいます。

正当な理由の例は下記のとおりです。

技術・人文知識・国際業務ビザ
  • 所属機関を退職後、具体的な就職活動を行っていると認められる場合
日本人の配偶者等ビザ・家族滞在ビザ・特定活動ビザの配偶者系
  • 一時的な別居で、正常な同居生活への回復が見込める場合
  • 離婚調停又は離婚訴訟中の場合
  • 別居の理由が、配偶者からのDVが原因で保護や避難が必要な場合
  • 母国の親族の看病等の為、入国許可による長期間の出国をしていた場合
  • 子供の養育等やむを得ない事情のために配偶者と別居して生活しているが生計を同一にしている場合
  • 当該外国人文はその配偶者が病気治療のため長期入院中の場合
留学ビザ
  • 在籍校を卒業し、新たに別の教育機関へ入学準備をしている場合
  • 在籍校の閉校により、転校準備をしている場合
  • 長期入院により休学し、かつ、復学意思がある場合
  • 在職・在学等したまま再入国許可により出国していた場合

「届出をしないことにつき正当な理由がある場合」とは

8号・9号に規定されている正当な理由とは下記のような場合をいいます。

  • 勤めていた会社が急に倒産した場合や、クビになった場合で、新たな住居地を定めていない場合
  • 配偶者からのDVが原因で保護や避難が必要な場合
  • 転居後に急な出張が決定し、出国中である場合
  • 頻繁な出張の為、住居地の設定をしていない場合
  • 病院に入院中で届け出ができない場合

「虚偽の住居地を届け出たこと」とは

  • 例えば、夫婦で別居しているにもかかわらず同居しているものとして申請した場合をいいます。
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