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この記事では企業内転勤ビザを取得するための条件である「在留資格該当性」と「上陸許可基準適合性」について解説します。
「在留資格該当性」と「上陸許可基準」については、在留資格認定証明書や在留期間更新の一般要件をご確認ください。
外国人が取得したいビザが本当に取得できるのか否か、また要件に適合せずに取得できない場合は、日本での在留を諦めるのではなく他のビザの要件に適合するか否か、これらを考える上で実務上はまずこの「在留資格該当性」と「上陸許可基準適合性」を正確に把握して検討を進めなければなりません。
企業内転勤ビザについて法で定められた「在留資格該当性」と「上陸許可基準適合性」の解説に進めます。
企業内転勤ビザの「在留資格該当性」
まず入管法別表第1の2に定める法文は下記の通りです。
本邦に本店、支店その他の事業所のある公私の機関の外国にある事業所の職員が本邦にある事業所に期間を定めて転勤して当該事業所において行うこの表の技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる活動
要約すると、「技術・人文知識・国際業務」の活動をする為に、海外から日本へ転勤する外国人がこの企業内転勤ビザを取得する必要があります。
「技術・人文知識・国際業務」の活動について詳しく知りたい方は、技術・人文知識・国際業務ビザの在留資格認定証明書交付条件をご確認ください。
では「本邦に本店、支店その他の事業所のある公私の機関」とは何が含まれるのか、「転勤」には出向も含まれるのか、また含まれるのであれば出向が認めらえれる範囲とはなにか、「本邦の事業所」に要求される条件はあるのか、「期間を定めて」の期間の範囲とは等、法文を見ても分からない事が多いと思います。これらについて解説を進めていきたいと思います。
「本邦に本店、支店その他の事業所のある公私の機関」とは
民間企業のみならず、公社・独立行政法人及びその他の団体(JETORO,経団連等)が含まれます。また、外国の政府関係機関や外国の地方公共団体(地方政府)の関係機関も含まれます。ただし、外国の政府関係機関の場合に当該機関における活動が外交ビザ・公用ビザの在留資格に該当するときは、当該ビザが該当します。
また、「本邦に本店、支店その他の事業所のある」と定められているだけで、外国企業か日本企業かは問われません。
「その他事業所」には、営業所や駐在員事務所も含まれます。
「転勤」とは
転勤とは一般的には同一会社内の異動を意味するが、「親会社」-「子会社」-「関連会社」間の出向等も含まれます。具体的には、下図の赤矢印間の転勤・出向が認められます。
「親会社」「子会社」「関連会社」の定義は、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第8条に基づきます。
簡単に解説しますと、「親会社」と「子会社」の関係は、議決権・出資・人事・資金・技術・取引等を考慮して、事業の意思決定の支配関係にある場合に成立します。また「関連会社」の関係は、上記の内容を考慮して、事業の意思決定に重要な影響を及ぼす関係にある場合に成立します。
「関連会社」への出向として企業内転勤ビザが認められる為には、単独20%以上の出資関係がある場合はそれだけで、在留資格該当性を有することになります。しかし、単独20%未満15%以上の出資関係の場合と合同20%以上の出資関係の場合は、出資関係プラス、人事、資金、技術、取引等の関係との合わせ技で、「企業内転勤」の該当性を有することになります。
「期間を定めて」とは
企業内転勤ビザは、一定の転勤期間を定めた活動であり、転勤後無期限に日本に滞在することを想定しているビザではありません。
従って、派遣状や辞令等(入国管理局に提出します。〉においては、派遣期間が明記されていることが前提となります。
但し、在留期間更新をすることが出来ますので、事情変更があった場合には、在留資格該当性及び相当性を満たす限り、継続して日本に在留することが出来ます。
「本邦にある事業所」に要求される条件
外国の事業所からの転勤・出向先となる「本邦にある事業所」はどんなものでもいいわけではなく、下記のような一定の条件があります。
- 事業が適正に行われ、かつ、安定的に事業を行っていると認められるものでなければならない。
- 施設が確保され、当該施設において事業活動が行われるものでなければならない。
また、「本邦に本店、支店その他の事業所のある公私の機関」と同様に、外国企業か日本企業かは問われません。
「当該事業所において行う」の文言の留意点
「当該事業所において行う」という文言は、「技術・人文知識・国際業務」に定める法文には存在せず、「企業内転勤」に定める法文には存在します。
この事には注意が必要です。
「技術・人文知識・国際業務」ビザをもって在留する外国人が、人材派遣会社と雇用契約を結び、他の会社へ派遣されて業務を行う事が認められている事は、技術・人文知識・国際業務ビザの在留資格認定証明書交付条件-「契約」とは、で解説したとおりです。
しかし、「企業内転勤」には、法文上「当該事業所において行う」と定められており、外国にある会社から日本にある人材派遣部門または人材派遣会社に転勤・出向し、さらにそこから別の会社へ派遣されることは認められない事となります。
この点は、「技術・人文知識・国際業務」と「企業内転勤」の違いとして把握していただきたいです。
他のビザとの境界
「技術・人文知識・国際業務」と「企業内転勤」
外国法人の日本支店又は支社で外国人が働く場合、技術・人文知識・国際業務ビザに定める本邦の公私の機関との契約は、外国法人との契約で足りる事から、企業内転勤ビザと技術・人文知識・国際業務ビザの両方のビザが射程範囲となります。
従って、企業内転勤ビザに定められる、転勤前に1年間の継続雇用があった事の要件に該当しない場合は、技術・人文知識・国際業務ビザの方向で進める検討をすべきです。
この技術・人文知識・国際業務ビザと企業内転勤ビザの違いを整理すると下記の通りです。
- 資格要件:技人国ビザには学歴又は実務要件、企業内転勤ビザには直近1年の在籍要件
- 転職可否:技人国ビザは転職により他の会社に移る事が出来るが、企業内転勤ビザは転勤した特定の事業所で活動することが必要です。
- 派遣業務:技人国ビザは他の会社に派遣される事が認められるが、企業内転勤ビザは転勤した特定の事業所で活動することが必要です。
これらの違いを把握して、来日する外国人や招へいする機関(転勤元・転勤先機関)は、どちらのビザで進めるか検討しなければなりません。特に資格要件における、大卒者又は10年の実務経験と、1年の在籍要件では、給与支払面で差が表れる事が多いので、その点でも特に招へい機関(転勤元・転勤先機関)にとって重要だと思われます。
優先されるビザ
企業内転勤ビザの活動内容は、技術・人文知識・国際業務ビザに該当する活動をすることとされています。
従って、技術・人文知識・国際業務ビザと同様に企業内転勤ビザについても下記のビザが優先されます。
「教授」「芸術」「宗教」「報道」「経営・管理」「法律・会計業務」「医療」「研究」「教育」「興行」
企業内転勤ビザの「上陸許可基準適合性」
企業内転勤ビザの上陸許可基準について、基準省令の本文、1号、2号に分けて解説します。
基準省令本文
基準省令本文に定められている法文は下記の通りです。
申請人が次のいずれにも該当していること。
文字通り、下記の1号と2号の両方に該当する事が要求されます。
基準省令第1号
基準省令第1号に定められている法文は下記の通りです。
一 申請に係る転勤の直前に外国にある本店、支店その他の事業所において法別表第一の二の表の技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる業務に従事している場合で、その期間(企業内転勤ビザをもって外国に当該事業所のある公私の機関の本邦にある事業所において業務に従事していた期間がある場合には、当該期間を合算した期間)が継続して一年以上あること。
法文の整理
この第1号は、海外から日本への転勤者が、転勤前に継続1年以上「技術・人文知識・国際業務」の業務をしていたことが要求されてる事を示しています。
用語の定義・解説
では、「転勤前の業務と来日後の業務の関連性」はどの程度のレベルが要求されるのか、「継続して1年以上+カッコ書きの合算期間」とは具体的にどのようなものか、その他解説に進みます。
「転勤前の業務と来日後の業務の関連性」に要求されるレベル
転勤前と転勤後のそれぞれの業務が「技術・人文知識・国際業務」の活動に従事するものであればよく、双方に関連性までは要求されておりません。
但し実務上の審査においては、関連性を有しているほど申請人が転勤する必要性が高いことを強く基礎付けられるので、プラス要素として考慮されます。
「継続して1年以上+カッコ書きの合算期間」の具体的解説
これは転勤前の外国における業務期間と、「企業内転勤」として来日中の業務期間を合算しても良いという事を意味しております。
この法文が成立した背景には、例えば転勤として半年間来日した後に外国に帰った外国人の方が、さらにその後短期間のうちに再び来日する必要性が生じた場合に、カッコ書きが無ければ、外国において業務した期間は短期間なので、条件を満たすことが出来ないということを回避する事にあります。
従って、「技術・人文知識・国際業務」の業務さえ継続していれば、外国で働き、また日本に転勤して働くことを繰り返しても、その期間は全て合算されます。
但し、「企業内転勤」による来日のみが対象であって、「技術・人文知識・国際業務」による来日期間は合算できない事に注意は必要です。
基準省令第2号
基準省令第2号に定められている法文は下記の通りです。
二 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
用語の定義
では、「報酬」とは通勤手当などは含まれるのか、「日本人~と同等額以上」とはどの程度の範囲まで許されるのかなど、用語の定義についての解説に進みます。
「報酬」とは
ここでいう「報酬」は、役務の給付の対価であり、通勤手当・住宅手当などの実費弁償は含みません。また、扶養手当についても被扶養者の有無による審査上の不平等を生じさせないため、「報酬」に含めないこととされています。
また退職金・結婚祝金・見舞金・現物給付としての住宅・食事等・制服・旅費等については、その実質が見舞金・恩恵的・福利厚生的なものは「報酬」に含まれませんが、労働協約・就業規則・労働契約等で支給条件が明らかなものは「報酬」に含まれます。
「日本人~と同等額以上」とは
基本的には申請人が契約する個々の企業に在する日本人であって同等の地位の者と比較されます。
当該企業に日本人居ない場合は、同種の職種の他の企業に在する同等の地位の日本人と比べ同等であるかで判断されます。
例えば、日本人大卒者の新入社員給与と外国人大卒者の新入社員給与を比較し、同等かどうかという事が審査されることになります。
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