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海外から、日本に進出して会社を設立した。これからはじまるビジネスにむけ、ワクワクしていることでしょう。

しかし、会社をつくったあと忘れてはいけない手続きがあります。それは、税金や社会保険に関する届出です。

義務付けられた届出・手続きをせずに事業を始めてしまう方もいらっしゃいます。しかしそれは法律に反するものです。

特に外国人が経営管理ビザ(在留資格)を取得して日本で事業をしている場合、1年後または3年後に迎えるビザ更新をきちんとクリアする為には、しっかりと届出・手続きを行っておきましょう。

ここでは、外国人が会社を設立したあと、税務や労務関係のやるべき手続きについてご紹介します。書類の用意は難しいと思うかもしれませんが、事業展開には大切なステップです。会社設立のときの、参考にしてください。

外国人が会社設立後、必要な届出・手続き(税務・労務・社会保険)

会社をつくったあと、必要な手続きの一覧

法人や支店を日本で設立したあとは、さまざまな届出をおこないます。税金や保険に関する手続きが中心です。

すべてではありませんが、重要な手続きを以下にまとめました。

税務署
・法人設立届出書(法人のばあい)
・外国普通法人となった旨の届出書(支店のばあい)
・青色申告の承認申請書
・給与支払い事務所等の開設届出書
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
都道府県税事務所・市区町村税事務所(または役場)
・法人設立届出書
労働基準監督署
・労働保険関係設立届(従業員を雇う場合)
・労働保険概算保険料申告書(従業員を雇う場合)
公共職業安定所(ハローワーク)
・雇用保険適用事業所設置届(従業員を雇う場合)
・雇用保険被保険者資格取得届(従業員を雇う場合)
社会保険事務所
・新規適用届
・新規適用事業所現況書
・被保険者資格取得届
日本銀行
・詳細は日本銀行にお問い合わせください。
・海外居住者が日本に法人を設立する場合、種々条件により、事前届出が必要な場合/事後報告が必要な場合/何も必要のない場合、があります。

税金に関する手続き

法人や日本支店を設立したら、税金に関する手続きをきちんと行いましょう。

日本の税務制度は「国税」と「地方税」とにわかれています。

国税は税務署の担当です。地方税は、都道府県税事務所や市区町村税事務所(または役場)の担当になります。

法人であれば、税務署および所在地を管轄する都道府県税事務所もしくは市区町村税事務所(または役場)の両方に届出が必要です。

日本支店の場合は、税務署のみで大丈夫です。

税務署への届出を、くわしく見てみよう

ここでは、おもに税務署へ必要な手続きについてご説明します。

【法人のばあい】法人設立届出書

日本で法人を設立したら、税務署に「法人設立届出書」を提出します。

提出の期限は、法人を設立した日から2ヶ月以内です。

基本的 に必要な書類(その他必要な資料が必要な場合あり)
・法人設立届出書
・定款のコピー
・登記簿(法人の履歴事項全部証明書)のコピー
・法人の代表印
とどける場所
・法人の所在地となる管轄の税務署
【支店のばあい】外国普通法人となった旨の届出書

本店が外国にあり、日本に支店をつくる外国法人の場合、「外国普通法人となった旨の届出書」を税務署に提出します。

提出の期限は、支店を設立してから2ヶ月以内です。

基本的に必要な書類(その他必要な資料が必要な場合あり)
・外国普通法人となった旨の届出書
・定款のコピーとその翻訳
・国内においておこなう事業内容についての書類
とどける場所
・法人の所在地となる管轄の税務署
給与支払い事務所等の開設届出書

役員や従業員に、給与を支払う会社や支店は、「給与支払い事務所等の開設届出書」を税務署にかならず提出します。

たとえ代表者がひとりだけの会社でも、役員報酬を払うなら提出は必要です。

たとえば、売上げが少ないからいまは役員報酬がなくても、利益が出る年度末に役員報酬を支払う予定であれば、提出しておくことをおすすめします。

提出の期限は、給与支払いや報酬が発生した日から1ヶ月以内です。

青色申告の承認申請書

日本の税金の申告方法には、「白色申告」と「青色申告」の2つがあります。

白色申告のほうが手続きが簡単です。ただし、青色申告は難しい帳簿作成を求められる分、税制の優遇措置があります。

一般的には、所得が高くなるほど青色申告による節税のメリットが大きくなります。

「青色申告の承認申請書」の提出は、かならずしも必要ではありません。しかし、受けられる節税のメリットを考えて提出することをおすすめします。

白色申告
つくる帳簿が簡単。税金の優遇措置はない。
青色申告
つくる帳簿が難しい。そのぶん、節税できる優遇措置がある

青色申告の申請方法は、青色申告の申請書を税務署に提出する必要があります。

申請の提出期限は、設立から3ヶ月以内、または事業年度終了日のいずれか早い日までです。間に合わない場合は翌年から適用されます。

青色申告のメリットは下記のとおりです。

  • 最大65万円の控除をうけられる
  • 赤字を繰り越せる
  • 生計を同じくする家族への給与を経費にできる(別途申請が必要)
  • 貸倒引当金を経費にできる
  • 30万円未満の資産を取得したばあい、一度に経費計上できる
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書

「源泉所得税の納期の特例」とは、従業員が10名未満の場合、源泉所得税の納付を年2回にすることができる制度です。

源泉徴収とは

給与を支払う側(会社)が、従業員の所得にかかる税金(所得税)を計算し、給与から差し引いて納税することを「源泉徴収」といいます。

会社は、給与支払いの翌月10日までに、所得税を国に納めなければいけません。

源泉所得税の納期の特例のメリット

もし、会社の従業員が10名未満であれば「源泉所得税の納期の特例」を申請できます。

これにより、毎月必要だった源泉所得税の納期を「年に2回」に減らせます。

源泉所得税の納期の特例の申請方法は、指定の申請書を税務署に提出する必要があります。

提出の期限という概念はなく、提出してから適用されます。

納期の特例が認められた場合の納付日は下記のとおりです。

  • 1月から6月までの源泉所得税…7月10日
  • 7月から12月までの源泉所得税…翌年1月20日

知っておきたい、日本の税金の知識

会社をつくり、事業をはじめたあと、利益がでれば「税金」を国に納めます。

その際、日本の税金の知識があれば節税に役立ちます。節税のポイントとなるのは、つぎの3つです。

  • 資本金額
  • 事業年度
  • 創立費と開業費

資本金が1,000万円未満か以上かで違う「消費税」

もし、会社の資本金が1,000万円未満なら、初年度の消費税は免除されます。

金額を決めるのは、会社の事業年度開始日での資本金の額です。

また、ここでの資本金には、資本準備金はふくまれません。

会社の自己資本を多くしたい場合には、すべてほ資本金にするのではなく、一部を資本準備金として勘定しておく方法があります。

日本支店であれば、外国法人の資本金で考える

日本に支店をつくったケースでは、外国法人の資本金をもとに、消費税の支払いが免除されるかどうかを判断します。

外国法人が、設立して最初の年か2期目であれば、外国法人の事業年度開始日の資本金が基準になります。

日本円に換算して、1,000万円未満であれば初年度の消費税の支払いが免除されます。

逆に、外国法人が設立して何年もたっている場合は、課税売上高から判断して消費税の課税対象になるかどうかが決まります。

資本金が1,000万円以上1億円以下で受けられる優遇

資本金が1億円以下であれば、受けられる税金の優遇措置があります。

  • 年800万円以下の所得に対して、軽減税率(15%)を適用できる
  • 年800万円以下の交際費は、すべて損金算入できる
  • 青色申告書を提出する企業は、欠損金の繰戻還付ができる
  • 30万円未満の少額減価償却資産を、すべて損金算入できる
  • 法人事業税の外形標準課税の対象外になる
  • 留保金課税の適用対象から除外される
  • 各種特別償却や特別控除を適用できる
  • 貸倒引当金の法定繰入率を適用できる

事業年度によって、利益を先延ばしする

「事業年度」をいつにするかも、税金を考えるうえでの大切なポイントです。

法人や支店であれば、事業年度の区切りを自由に決められます。3月末でも、12月末でも、ビジネスの波に合わせた事業年度にできます。

たとえば、3月に大きな売上げがある会社が事業年度を2月までとすれば、3月の利益を1年間繰り延べることができます。

設立1期目が7ヶ月なら、消費税を1年以上免除できる!?

資本金が1,000万円未満であれば、初年度の消費税が免除されることはお話しました。

特定期間(初年度の事業開始日から6ヶ月)の課税売上高もしくは支払った給与等の金額により、2期目は消費税を納付するべきか判断されます。

この際、初年度の事業年度を「7ヶ月」にすることにより、売上げにかかわらず2期目も消費税の免除をうける方法があります。

これを、短期事業年度の特例といいます。

特定期間とは

法人の場合は、その事業年度の前事業年度開始日以後6ヶ月の期間をいいます。

この期間に、課税売上高または給与等支払い額が1,000万円をこえていれば、設立2期目は課税事業者となります。

【例】

  • 2018年1月1日に設立、12月31日までを事業年度とする。
  • このさい、2018年1月1日からの6ヶ月間が「特定期間」となる。
  • この6ヶ月間の課税売上高が1,000万円を超えれば、2019年1月1日からの2期目は課税事業者として消費税を支払う
短期事業年度の特例とは

つぎのいずれかに該当する前事業年度のことで、特定期間とはみなされません。

  • 前事業年度が7ヶ月以下の場合
  • 前事業年度が7ヶ月を超え8ヶ月未満の場合であって、前事業年度開始の日以後6ヶ月の期間の末日の翌日から前事業年度終了の日までの期間が2ヶ月未満の場合

【短期事業年度の特例を生かしたケース】

  • 2018年1月1日に設立、6月30日までを事業年度とする
  • この際、1期目の事業年度が7ヶ月以下のため「特定期間」とはならない
  • 2018年1月1日~6月30日の売上げにかかわらず、2018年7月1日~翌6月30日も免除事業者となり、合計19ヶ月消費税を支払わなくてよくなる。

このように、事業年度をいつにするかにより、支払う税金も変わります。

日本の税制にあわせて、シミュレーションすることが重要です。

創立費と開業費は、繰り越して償却できる

節税のポイントとなるのが、いかに経費を計上してうまく利益を減らすかという点です。

その点でいえば、創立費と開業費は繰延資産として任意に償却することができ、タイミング次第で効果的な節税になります。

創立費と開業費は、どちらも会社設立にかかった費用についてですが、次のような違いがあります。

  • 創立費:会社設立のために支払った費用
  • 開業費:事業開始までに支払った費用

それぞれ、以下のものが当てはまります。

創立費(会社設立のための費用)
・定款などの作成費
・設立登記のための、登録免許税
・会社設立の専門家(行政書士など)へ支払う費用 など
開業費(事業開始までに支払った費用)
・会社案内やウェブサイトの作成にかかる広告宣伝費
・名刺を作るための費用 など

創立費と開業費は、希望するタイミングで決算に計上できます。

たとえば、事業を開始して3年間は赤字だったけれど、4期目は黒字になりそうだということであれば創立費と開業費を繰延資産として償却します。

その結果、4期目の利益を減らし節税ができます。

会社設立にあたり、登記にかかった費用やマーケティングのための支出は、領収書を保管しておき決算に計上できるようにしましょう。

低すぎる役員報酬は、ビザ更新に不利!?

会社をつくり、運営するにあたって役員報酬をいくらにするか決めます。

役員の出資率や事業への貢献度に応じて、金額を決めるのが一般的です。

ところが、「経営・管理」ビザを申請している外国人経営者のかたが、企業の利益を増額するために役員報酬を低く設定する例があります。

これは、あまりよろしい判断とはいえません。

なぜならば、「経営・管理」ビザ申請・更新での事業の安定度は単純に利益額だけで判断されないからです。

会社の経営状況や将来性は、「会社の利益+役員報酬」で判断されます。

役員報酬をただ同然にして会社を黒字にしたとしても、それは健全な経営状況とはいえません。

「経営・管理」ビザの更新にあたっては、役員報酬は最低でも月額20万円程度を目安に設定しましょう。

外国法人や非居住者への課税

海外に本店があり、日本へ進出した日本支店が国内で得た所得は、日本で課税されます。

また、海外本店から日本支店に派遣された外国人に対し、給与を支払う際は、その給与に対して所得税の源泉徴収が必要です。

ただし、本国と日本の間で租税条約を結んでいれば、日本での課税が免除されたり、税率が下がる場合があります。

租税条約とは

租税条約とは、税金の取りはぐれや二重課税をさけるためのものです。

日本支店がある外国法人のように、日本と本国の両方で課税される場合、租税条約を適用すれば、税金の支払いをどちらかの国だけにすることができます。

2017年6月の時点では、110カ国が日本と租税条約を結んでいます。

日本支店や外国人を雇用する場合、租税条約を適用するかは、税制対策で重要なポイントになります。本国が、日本と租税条約を結んでいるのか、まずは把握しておきましょう。

【租税条約加盟国一覧】

租税条約を適用するための手続き

日本法人や日本支店が租税条約の減税や免除をうけるには、「租税条約に関する届出書」を税務署へ提出します。

ただし、すべての減税や免除になるわけではなく、ケースごとに判断する必要があります。

日本への進出の際、税務上の手続きや税制への理解は非常に大切な分野です。

税理士など、専門家のアドバイスを受けましょう。

労働保険に関する手続き

労働保険とはなんでしょう。これは、会社で働く従業員を守るための保険です。

労働保険には、つぎの2種類があります。

  • 労災保険:従業員が、働いているときに怪我や病気、もしくは死亡した際への保障
  • 雇用保険:従業員が、仕事をやめて失業したときや、会社が倒産したときの保障

労働保険は、雇っている従業員をいざというときに保護するものです。

労災保険が適用される会社

労災保険は、1人でも従業員を雇用していれば、会社は加入する義務があります。

アルバイトやパートも対象になります。ただし、役員は労災保険の対象者にはなりません。

労災保険の加入手続き

提出先
・労働基準監督署
提出するもの
・保険関係成立届
・登記簿謄本

手続きが終了すると、労働保険番号が事業所(会社)に割り振られます。

あわせて、保険関係成立届の控えが送られてきます。これは、雇用保険の加入手続きで使うものなので、大切に保管しておきましょう。

雇用保険が適用されるケース

雇用保険とは、労働者のための保険です。こちらも、従業員を一人でも雇ったら加入の義務が発生します。

雇用保険の対象となるのは、以下いずれかの条件に当てはまる従業員です。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 31日以上の雇用が見込まれる人

雇用保険加入の手続き

提出先
・ハローワーク
提出するもの
・雇用保険適用事業所設置届
・従業員の雇用保険被保険者資格取得届
・労働保険関係成立届の控えのコピー

雇用保険関係の加入手続きが完了すると、事業所(会社)に事業所番号がわりふられます。そして、雇用保険適用事業所台帳が送られてきます。

社会保険に関する手続き

だれも雇わず、日本における代表者がたった一人の会社でも、社会保険の手続きは原則として必要です。

社会保険とは、働いている以外の日常生活で怪我や病気になったり、年をとって仕事を辞めたときに助けてくれるものです。

  • 健康保険:けが、病気、死亡に対する保障。病院での自己負担額が少なくなったり、出産で一時金がもらえることも。
  • 厚生年金保険:年をとったあとの生活や生涯に対する保証制度。
  • 介護保険:年をとり、介護が必要となった人への保証制度。40歳以上での加入が義務づけられています。

社会保険に加入する必要がある人

国籍をとわず、社会保険の適用事業所で働く人は健康保険・厚生年金保険に加入します。

ただし、次の2つの条件に当てはまらない場合は加入の必要がない可能性があります。

  • 労働時間が一般社員の4分の3以上
  • 労働日数が一般社員の4分の3以上

一般的に、多くの正社員は週5日・40時間で働いています。そうすると、4分の3以上とは週3日以上・30時間勤務以上ということになりますね。

ただし、4 分の3未満でも条件によっては加入する義務が発生するので、事前にご確認ください。

外国人が会社を設立し、「経営・管理」ビザを取得する場合は、この社会保険にしっかりと加入しているかどうかが、大事なポイントです。

設立した会社が労働保険や社会保険の適用事業所であれば、きちんと対象となる従業員を必要な保険に加入する手続きを行いましょう。

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