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「外国人でも、日本で会社を設立できますか?」たくさんの方から、このようなことを聞かれます。答えは、できます。外国人の方でも、日本で会社を作ることは可能です。ここでは、海外から日本へ事業進出を考えたとき、設立できる会社のタイプと必要なビザ(在留資格)についてお話します。

外国人が日本で会社を設立する- 進出の方法と必要なビザ(在留資格)

外国人が、日本で会社を設立するのは簡単になった?

従来は、日本に住んでいる協力者がいないと外国人が日本で会社を設立するのは困難でした。しかし、2015年に法改正が行われ、外国人の会社設立や必要なビザ(在留資格)取得の条件が変わり、より外国人や海外企業が日本へ進出しやすくなっています。

一つは株式会社の設立にあたり、代表取締役がすべて日本の非居住者でも認められるようになったことです。経営に関わる立場の人間が、すべて海外居住の外国人というケースでも、日本で会社の設立が可能です。

もう一つは、「経営・管理」のビザ条件が緩和されたことです。以前は、経営や会社の管理に関わる人がビザを取得するには、会社設立後でなければいけませんでした。しかし、会社設立を準備していると証明できれば、4ヶ月の「経営・管理」ビザ(在留資格)を取得し来日することも可能です。

ただし法律の部分で条件は緩やかになりましたが、日本に住んでいる協力者が必要になるケースもあります。もし日本居住者の協力者がない場合は下記のような場面に出くわすことでしょう。

  • 不動産業者が嫌がって、海外居住者でも契約できる事務所がなかなか見つからない。
  • 会社設立時の資本金を送金する為の日本の口座が開設できない。

このような問題に出くわすと思われます。絶対に解決できないというわけではございませんが、、やはり海外に住んでいる外国人が日本での会社設立をする際には、日本の銀行口座の開設、事業所の確保という点で、実際には日本居住者によるサポートがあったほうがいいでしょう。

会社を設立すると、どんなメリットがあるのか

外国人が日本でビジネス活動を行う場合、会社設立は絶対の条件ではありません。海外法人のまま、日本で取引を行うことも可能です。 しかし、日本に会社を設立し、日本に拠点を持つことは、日本でのビジネスの信用性を高め、顧客や取引先に安心感を与えられるというメリットがあります。

  • ビジネス上の信頼度が高まり、金融機関からの借入がしやすくなる
  • 顧客や取引先に、安心感を与えられる
  • 日本に拠点があることで、よりスムーズに事業を進められる
  • カスタマーサービスやアフターケアを充実させられる
  • 「経営・管理」や「技術・人文知識・国際業務」のビザが申請しやすくなる

日本に進出し、ビジネスを拡大していく際に拠点があることが重要です。ビジネス規模に適した進出形態を選べば、より事業展開がスムーズになるでしょう。

外国人が会社を設立する際の3つの選択肢

外国人が日本でビジネスをしたいと考え活動する場合、考えられる進出形態は次の3つに分けられます。

  • 日本法人(新規法人、既存海外法人の子会社)
  • 日本支店(日本での営業所)
  • 駐在事務所

日本法人(新規法人、既存海外法人の子会社)を設立する

もっとも一般的な、日本への進出方法です。日本法人を設立するパターンにも下記2種類があるかと思いますが、特に大きな違いはありません。

  • 既存の海外法人の子会社として、日本法人を設立する
  • 全く新しい会社として、日本法人を設立する

この2つは出資者に違いがあるだけであり、特に大きな違いはありません。1なら法人名義で出資して日本に法人を設立するものであり、2なら個人名義で出資して法人を設立するだけです。

そして、日本法人のタイプとして会社法上では株式会社・合同会社・合名会社・合資会社の4つに別れています。

一番設立する数が多いのが、株式会社です。法人として、各種場面において信用力を得やすい利点があります。会社名義での銀行口座の開設も可能です。

次点で合同会社です。株式会社よりもやや信用力は劣るものの、設立費用が安かったり、法人運営の手続きが簡素化できる利点があります。近年増えている形態です。

日本支店(日本での営業所)を設置する

日本国内で継続して営業活動を行う場合、日本支店(営業所)を登記しなければなりません。登記とは、法務局に事業内容を登録し社会に公示するものです。日本支店の設置は、日本法人の設立よりも簡易的に日本での営業活動を開始することができます。支店名義で日本の銀行口座を開設したり、不動産を借りることもできます。

駐在事務所

駐在事務所とは、外国人が日本でビジネス活動を行う前段階の、準備やマーケティングをするための拠点です。駐在事務所では、営業活動を行うことは許されていません。あくまでも、市場調査や情報収集、ビジネスの展開に必要な物品を購入したり、広告宣伝活動を行うことが目的です。駐在事務所の名義で銀行口座を開設したり、不動産を管理することはできません。

それぞれのメリット/デメリット

日本でビジネスをしたい、会社を設立したいと考える外国人にとって、3つの進出形態の中からどの形が適しているのでしょうか。判断するために、それぞれのメリットとデメリットをご紹介します。

日本法人

〈メリット〉

  • 法人として、社会的な信用度が高まる
  • 法人名義の銀行口座が作れる
  • 法人名義で不動産を借りることができる

〈デメリット〉

  • 会社設立に資本金が必要
  • 株式会社であれば、会社設立の手続きに20万円ほどかかる

日本支店

〈メリット〉

  • 本国の親会社の信用力を活かし、日本で営業活動ができる
  • 日本支店名義で銀行口座を開設できる
  • 日本支店名義で不動産を借りられる

〈デメリット〉

  • 「日本における代表者」として、最低1名は日本に住んでいる人が必要
  • 日本支店設立にかかる手続きの費用は、約9万円
  • 本国法人の住所や役員が変更になった際、日本支店の登記変更も必要になる

駐在事務所

〈メリット〉

  • 開設に、登記の必要がなく手続きが簡易

〈デメリット〉

  • 日本国内で、営業活動を行うことはできない
  • 外国人のスタッフを雇用し、就労ビザ(在留資格)を取得する難易度が高い
  • 法人名義での口座開設や不動産の契約ができないため、代表者名義で活動する

日本の会社と、本国の親会社との関係性

すでに海外でビジネスを展開している企業が日本への進出を検討する場合、会社のタイプとあわせて、本国の親会社との関係性を理解しておく必要があります。

日本法人と本国の親会社は、「別法人」

日本法人は、本国(海外)の親会社とは別の法人として位置づけられます。日本支店や駐在事務所との決定的な違いは、日本法人自体の経営に関する意思決定が日本法人にあることです。債権への親会社の責任も、出資額までと限度があります。決算も日本の法律に基づき個別に作成します。

日本支店は、本国の親会社の「営業所」

日本法人と同じように、日本で営業活動ができる日本支店ですが、位置づけは本国の親会社の一営業所です。つまり、親会社と日本支店は同じ事業体として考えられます。そのため、経営に関する意思決定機関は日本支店ではなく、本国の親会社に置かれます。決算も日本支店で作成したものを、親会社にて処理する合同決算が通常です。日本支店が訴えられたり、債務に対する責任も本国の親会社に大きく影響します。

駐在事務所は、親会社に関わっている「個人」

日本法人や日本支店と異なり、駐在事務所は法的な事業体ではありません。あくまでも、事業展開のための準備やマーケティングを目的とした、親会社に属する個人(代表者)が日本で活動している形になります。決算は、駐在事務所の場合は支出のみなので、親会社の決算に経費として計上します。

日本法人と日本支店、どちらを設立するべきか

日本でビジネスがしたい、営業活動を前提とする場合は、考えられる進出の選択肢は日本法人を設立するか日本支店を設立するかです。

親会社との関係性の違いは先に述べましたが、それ以外の観点からどちらがよいか検討すると、以下のような違いがあります。どちらの形態で会社を設立するかは、本国の親会社との関係性や資本金の大きさなどによってもメリットが異なります。

〈日本法人と日本支店の比較〉

想定される状況 日本法人 日本支店
日本で赤字が続く  
外国法人の資本金が1億以上  
損金算入が制限される項目が多い  
外国法人の情報公開をしたくない  
日本の金融機関からの借入
各種許認可の取得  
日本での事業が倒産した場合  
利益を本国に送金したい  

日本のビジネスが赤字が続くケース

海外に親会社があり、事業の仕組み上日本のビジネスの赤字が続く場合は、日本支店のほうが親会社にメリットがあります。なぜなら、日本支店が出した損失を親会社の決算に計上し、最終的な利益を減らすことで本国での節税対策になるからです。ただし、日本でのビジネスをもとに経営・管理ビザを取得している場合、ビジネスの安定性および継続性が審査の要件となります。事業の赤字決算が続く場合は、ビザ申請に影響が及ぶ可能性があります。

外国法人の資本金が1億円を超えるケース

本国の親会社の資本金が大きい場合、日本法人を設立するほうが税金面での優遇を多く受けられます。日本支店を設立すると、本国の親会社の資本金額が日本支店の資本金額となります。日本では、資本金が1億円を超えると中小法人として扱われず、その結果税法上の恩恵が減ってしまいます。どんなに小さな日本支店を作ったとしても、本国の親会社の資本金が1億を超えていれば、日本でも大法人として扱われてしまいます。

損金算入が制限される項目が多いケース

「損金」とは、会社の支出のことを指します。つまりは、経費として使った費用のことを法人税上で損金と呼んでいます。損金算入とは、会社の経費を決算に計上させるという意味です。

どのような項目を法人の決算に加えられるかは、国によって異なります。日本では会社の決算に全額を損金参入できる項目でも、本国ではできないケースもあります。そのような項目が多い場合、日本支店を設立するよりも、別法人として決算を行う日本法人を設立するほうがメリットがあるといえます。

外国法人の情報を公開したくないケース

本国の親会社の株式名簿や株主情報を公開したくない場合、日本法人を設立するほうが適しています。日本法人であれば、たとえ外国法人の100%出資であっても親会社の情報を公開する責任はありません。日本法人に出資した株主に関する情報も、閲覧できるのは株主か債権者に限定されており、一般には公開されません。一方で、日本支店は本国親会社の一営業所の位置づけになるので、外国法人の主要情報を公開する必要があります。

日本の金融機関から借入を検討するケース

銀行など、日本の金融機関から借入を行う場合、日本法人のほうが有利になることが多いです。一概には言えませんが、日本での資本金が明示されていること、万が一債権回収となっても日本国内で完結することから、日本法人のほうが信用力が高いと一般的には判断されます。

各種許認可を取得するケース

日本で会社を設立したら、業務の内容に合わせた法律上の許認可を取得する必要があります。飲食店であれば、飲食業を行うための許可。投資にかかわるビジネスであれば、金融商法取引業に基づいて必要な許認可を取得します。

こうした許可は、事業内容にあわせて適切なものを取得しなければなりません。許可を得ずにビジネスを行っては、違法行為として処罰の対象になることもあります。

日本法人と日本支店で、許認可を取得する際に違いとなるのは、資本金の額が条件となる「財産的要件」に関してです。一般建設業や第1種旅行業など、いくつかの許認可は一定の資本金があることを条件としています。

日本支店の場合、本国親会社の資本金を登記に使います。そのため、日本国内の資本金は存在せず、財産的要件が条件にある許認可は取得できないことになります。

〈資本金が必要な許認可の例〉

許認可の種類 内容 申請先 必要な資本金額
労働者派遣事業 自社雇用した労働者を他企業へ派遣させる 厚生労働省 2,000万円
有料職業紹介事業 企業の求人と、求職者を結びつける事業 厚生労働省 500万円
第1種旅行業 海外および国内の募集型企画旅行を実施 国土交通省 3,000万円
第2種旅行業 国内のみ、募集型企画旅行を実施できる 都道府県庁 700万円
第3種旅行業 営業所に隣接する市町村で募集型企画旅行を実施できる 都道府県庁 300万円

日本で事業が倒産したケース

もし、日本でのビジネスが倒産した場合、日本法人のほうが本国の親会社への影響が少なくなります。日本法人は親会社とは別法人として考えられ、債権への責任も出資額までと限度が定められています。日本支店であれば、もし支店が負債を抱えて倒産したら本国の親会社は負債の返済についての責任を負うこととなります。

利益を本国に送金したいケース

もし日本の事業で得た利益を本国の親会社に送金することを考えているのであれば、日本支店のほうが税金上の優遇を得ることができます。日本支店は本国の親会社と同じ事業体だと考えられますので、送金に対して課税されません。また、事業資金を移動させる場合でも、日本法人と比較して手続きが簡素です。

外国人が日本で会社を設立するには、ビザ(在留資格)が絶対必要?

外国人が短期で来日して取引の締結等の行為のみをする場合を除き、日本でビジネスを行うには、会社の設立と合わせて適切なビザ(在留資格)を取得しなければなりません。どんなビザが必要かは、申請する外国人の方の状況によって異なります。

新たにビザは必要ない

もし就労に制限のないビザをお持ちであれば、日本での会社設立に新たにビザを取得する必要はありません。例として、以下のビザをお持ちの外国人は、会社設立にあたり新たにビザを申請する必要はありません。

  • 日本人の配偶者等
  • 定住者
  • 永住者
  • 永住者の配偶者等

ビザの種類を確認、必要であれば変更

既に何かのビザ(在留資格)で滞在している外国人の場合、ビジネスの内容とビザの条件が一致しているか確認しましょう。「留学」や「技術・経営管理・国際業務」のビザ(在留資格)で滞在している方は、企業の経営や管理に携わる場合新たにビザを取得する必要性が出てきます。

「経営・管理」ビザが必要な方

「経営・管理」ビザ(在留資格)とは、日本で事業の経営に参画したり、管理に携わる外国人のためのビザです。代表取締役、監査役、工場長といった役職が該当します。

現在、海外に滞在し、これから日本での会社設立をお考えの外国人は、「経営・管理」のビザの取得が必要です。ただし、日本に事業のパートナーがいて自分は海外から遠隔で経営に携わるケースでは、ビザを取得する必要はありません。

「経営・管理」のビザが必要な場合、会社設立で気をつけるべきこと

会社の設立に関する法律と、「経営・管理」ビザ取得条件は別の話です。会社が設立できたからといって、取締役の外国人が「経営・管理」のビザが取得できるわけではありません。

日本でのビジネス展開にあたり、「経営・管理」のビザ取得が必要な外国人の方は、会社設立の際に以下の点に注意しましょう。

  • 事業所の確保
  • 資本金の額、もしくは従業員の人数

会社設立にあたり、バーチャルオフィスやシェアオフィスを登記の住所として利用することができます。しかしながら、「経営・管理」ビザ(在留資格)では事業の継続性という観点から事業所にバーチャルオフィスやシェアオフィスを利用することは、原則認めていません。実態のない、日本在住の知り合いの住所を借りるという方法も、ビザ取得には厳しい状況になります。

また、設立した会社の資本金もしくは雇用する従業員の人数が、ビザの申請条件に合致している必要があります。資本金の金額は、最低で500万円必要です。もしそうでなければ、フルタイムの従業員を2名雇用することが求められます。

詳しい「経営・管理」ビザ(在留資格)の申請条件については、「経営・管理ビザ(在留資格)の申請-日本で会社設立する外国人向け」をご覧下さい。なお、日本法人であれ日本支店であれ、会社の形態はビザ申請に当たってはとくに影響はないと考えられています。

日本へのビジネス進出に当たっては、適切な会社のタイプを選ぶこと、また必要なビザ(在留資格)など幅広い知識が求められます。外国人で日本へ事業展開したいとお考えの方は、お気軽にお問い合わせください。

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