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本判決の意義は、NC旋盤のプログラミング作業や旋盤機の修理は技術ビザに該当する活動であると判示した点、また資格外活動として退去強制事由に該当するためには、単に専ら活動を行っていた事実だけではなく、その事実に至った経緯・外国人の認識・活動の継続性などを総合的に判断すべきと判示した点です。

本件は、ベトナム人男性がある会社に雇われ、NC旋盤に加工物をセットし、加工スタートさせ、完成物を検品する作業に従事していたところ、入管から資格外活動であるとの摘発を受け、退去強制処分となったが、ベトナム人男性が取消訴訟を起こしたものです。

判決によると、ベトナム人男性は資格外活動に従事していた事は間違いないが、それが退去強制事由に該当する為の要件である、資格外活動を「専ら行っていた」ことが「明らかに認められる」とまではいかないと判示しました。

その判決文において、確かにベトナム人男性が従事していた作業は、技術ビザに該当しない活動と認定されましたが、付随する文として「NC旋盤のプログラミング作業や旋盤機の修理は技術ビザに該当する活動であるものの・・・」と判示している点は重要です。

また、「専ら」「明らか」か否かを判断するうえでは、単に活動の事実のみで判断するのではなく総合的な考慮をもって判断すべきとし、本件では、下記の外国人の事情を考慮し、「専ら」「明らか」と認めた処分は違法だとしました。

  • 外国人はどのような仕事をするか完璧には認識していなかった
  • 資格外活動に従事してから1ヵ月もたっていなかった
  • 退職したい旨を事業主に伝えていた
  • 転職前に働いていた資格該当性を満たす仕事内容の会社に復職したい旨を、当該会社に伝えていた
  • NC旋盤の操作自体は資格該当性がないものの、資格該当性があるNC旋盤のプログラミング作業とは相当程度の関連性があったこと

裁判名

平成28年2月18日判決言渡

平成26年(行ウ)第128号 退去強制令書発付処分等取消請求事件

主 文

1 名古屋入国管理局入国審査官が平成26年10月10日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法24条4号イに該当する旨の認定を取り消す。

2 名古屋入国管理局長が平成26年10月23日付けで原告に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく異議の申出には理由がない旨の裁決を取り消す。

3 名古屋入国管理局主任審査官が平成26年10月27日付けで原告に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。

4 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文第1項ないし第3項と同旨

第2 事案の概要

概要1

本件は、ベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」という。)国籍を有する外国人男性である原告が、名古屋入国管理局(以下「名古屋入管」という。)入国審査官から、平成26年10月10日付けで出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)24条4号イ(資格外活動)に該当する旨の認定(以下「本件認定」という。)を受けた後、名古屋入管特別審理官から、本件認定に誤りがない旨の判定を受けたため、入管法49条1項に基づき、法務大臣に対して異議の申出をしたところ、法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入国管理局長(以下「名古屋入管局長」という。)から、同月23日付けで原告の異議の申出には理由がない旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を受け、引き続き、名古屋入管主任審査官から、同月27日付けで退去強制令書発付処分(以下「本件処分」という。)を受けたため、本件認定、本件裁決及び本件処分の各取消しを求めた事案である。

概要2

前提事実(当事者間に争いのない事実及び掲記の証拠等により容易に認められる事実。以下、書証番号は、特記しない限り枝番を含む。)

(1) 原告の身分関係

原告は、昭和59年(1984年)2月3日、ベトナムにおいて出生したベトナム国籍を有する外国人男性である。(甲1、乙1)

(2) 原告の本邦入国・在留状況

原告は、平成22年10月25日、P1株式会社(以下「P1」という。)において塗装機プログラマーとして就労するため、雇用主を代理人として、在留資格「技術」に係る在留資格認定証明書の交付を申請し、同年11月1日、在留資格を「技術」、在留期間を「3年」とする在留資格認定証明書の交付がされた。(乙1、2)

原告は、平成22年11月29日、在留資格を「技術」、在留期間を「3年」とする上陸許可を受けて本邦に上陸した。(甲1、乙1)

原告は、平成24年1月31日、P1を退職した。(乙4)

原告は、平成24年2月2日、一般労働者派遣事業を行う株式会社P2(以下「P2」という。)と雇用契約を締結し、P2が労働者派遣契約を締結しているP3株式会社(以下「P3」という。)において「トムソン金型プレス機の裁断パターンデータのプログラミング、データベースの管理を含む生産品質管理及び操作全般と修理を含むメンテナンス業務」に従事するため、P3に派遣された。(甲11、乙5、6)

原告は、平成24年8月8日、P3において技術職として行う機械のプログラミング等に係る活動は在留資格「技術」の活動に該当する旨の就労資格証明書の交付を受けた。(甲6)

原告は、平成25年11月20日、在留期間を「3年」とする在留期間更新許可を受けた。(乙1)

原告は、平成26年7月15日、P2を退職した。(乙8)

原告は、平成26年8月末頃、有限会社P4(以下「P4」という。)と雇用契約を締結し、同年9月3日から、株式会社P5(以下「P5」という。)に派遣され、P5において旋盤機械を用いた金属素材の切削作業に従事した。(乙7、14、16、24ないし27)

(3) 本件裁決及び本件処分に至る経緯等

名古屋入管入国警備官は、平成26年9月30日、愛知県西尾市α×所在の○102号において、原告を入管法24条4号イ該当容疑で摘発し、違反調査を実施した。(乙7、9)

名古屋入管入国警備官は、平成26年9月30日、原告が入管法24条4号イに該当すると疑うに足りる相当の理由があるとして、名古屋入管主任審査官から収容令書の発付を受け、これを執行して原告を名古屋入管収容場に収容した。(乙10)

名古屋入管入国警備官は、平成26年10月1日、原告に対する2回目の違反調査を実施した上、入管法24条4号イ該当容疑者として原告を名古屋入管入国審査官に引き渡した。(乙11、12)

名古屋入管入国審査官は、原告に対する審査を実施した結果、平成26年10月10日、原告につき入管法24条4号イに該当する旨の認定をし、これを原告に通知した。これに対し、原告は、同日、口頭審理の請求をした。(乙13ないし15)

名古屋入管特別審理官は、平成26年10月21日、原告に対する口頭審理を実施した結果、上記エの認定には誤りがない旨判定し、これを原告に通知した。これに対し、原告は、同日、異議の申出をした。(甲9、乙16ないし17)

法務大臣から権限の委任を受けた名古屋入管局長は、平成26年10月23日付けで、上記オの異議の申出には理由がない旨の本件裁決をし、名古屋入管主任審査官に対し、その旨を通知した。(乙18、19)

名古屋入管主任審査官は、平成26年10月27日、原告に対し、本件裁決を通知するとともに、ベトナムを送還先とする退去強制令書を発付する旨の本件処分をし、名古屋入管入国警備官は、同日、本件処分に係る退去強制令書を執行して、原告を引き続き名古屋入管収容場に収容した。(甲10、乙20)

(4) 本件訴訟の提起等

原告は、平成26年11月27日、本件訴えを提起した。(顕著な事実)

原告は、平成27年1月19日、仮放免された。(乙20、23)

3 争点及び当事者の主張

本件の主な争点は、本件認定の適法性、すなわち、原告につき入管法24条4号イ所定の退去強制事由が認められるか否かであり、これに関する当事者の主張は、以下のとおりである。

(1) 被告の主張

「技術」の在留資格をもって在留する者が本邦において行うことができる活動は、「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野に属する技術又は知識を要する業務に従事する活動」(入管法別表第一の2「技術」の項)であるから、かかる活動に該当するためには、自然科学の分野の専門技術又は専門知識を必要とする業務に従事する必要がある。そのため、機械の製作についていえば、機械を設計しあるいはその組立てを指揮する活動は、機械工学等の専門技術・知識を要する業務に従事する活動として「技術」の在留資格に該当するが、単に機械の組立作業に従事する活動は、自然科学の分野に属する技術・知識を必要とする業務に従事する活動とは認められないことから、「技術」の在留資格には該当しない。

原告がP5において従事していた仕事は、プログラミングといった専門的な技術・知識を必要とする作業ではなく、金属の素材をNC(NumericalControl、数値制御)旋盤機械内に固定してスタートさせ、その後に出来上がった製品を見本と見比べるという、自然科学の分野に属する技術・知識を必要としない作業である。

そうすると、原告は、P5において、「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野に属する技術又は知識を要する業務に従事する活動」を行っていなかったものである。

資格外活動を「専ら行っている」(入管法24条4号イ)の解釈については、入管法の定める在留資格制度の機能に照らし、資格外活動の継続性及び有償性、本来の在留資格に基づく活動をどの程度行っているかなどを総合的に考慮して、在留資格に対応した活動から実質的に変更されたと評価できる程度まで資格外活動を行っていることを要すると解される。そして、本来の在留資格に対応する活動を全く行っておらず、資格外活動のみを専ら行っているような場合については、特段の事情がない限り、原則として資格外活動を「専ら行っている」と解すべきである。また、「明らかに認められる」(入管法24条4号イ)とは、証拠資料、本人の供述、関係者の供述等から入管法24条4号イに定める資格外活動を専ら行っていることが明白であると認められることを意味すると解される。

原告は、平成26年9月3日から同月29日までの間、P5において、資格外活動に従事していた一方、「技術」の在留資格に基づく活動を一切行っていなかったものである。また、原告が、資格外活動を「専ら行っている」ことについては、原告の退去強制手続段階における供述、並びにP4及びP5の各代表取締役の供述から明らかである。

よって、原告が資格外活動を「専ら行っている」ことは、「明らかに認められる」。

なお、原告は、①P4からは試用期間中であると説明されていた、②原告は、P2への復職を希望し、P4への退職を申し出ていたと主張するが、上記①を認めるに足りる証拠はなく、仮に、原告がP2への復職を希望し、P4への退職を申し出ていたとしても、それまでの間に資格外活動に従事し、これが在留資格に対応した活動から実質的に変更されたと評価できる程度にされていれば、退去強制事由に該当する。

以上によれば、原告は、入管法19条1項の規定に違反して就労活動等を専ら行っていると明らかに認められる者であり、入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当することは明らかであるから、本件認定は適法である。

また、本件認定は適法である以上、本件認定が適法であることを前提とした本件裁決も適法である。さらに、退去強制令書の発付に当たっては、主任審査官には裁量の余地はないから、本件裁決が適法である以上、本件処分もまた適法である。

(2) 原告の主張
ア-ア

「技術」の在留資格に見合う活動についての入管法の規定は曖昧であり、何らの行動規範ともならないものである。また、「機械加工」など厚生労働省所管の技能検定で「特級」の等級を持つ職種や「技能実習2号」の対象職種であっても、入管法上は「単純」に分類されるなど、入管法上の専門的技術又は知識を要する業務は、社会通念上の専門性、技術性との認識と異なっている上、法務省入国管理局が、「単純」と分類する業務は、在留外国人に周知されていないため、在留資格に見合う活動の範囲は曖昧なものとなっている。さらに、「技術」の在留資格に見合う活動ではなくとも、主として技術者としての経験のない大学新卒者等に対する研修や教育の一環として、計画的に社会の非専門的又は非技術的な作業を暫定的に行うことは許容されるところ、これらの要素はいずれも曖昧で基準としての明確性を欠いている。

以上によれば、「技術」の在留資格に見合う活動の意義は、当該資格を有する在留外国人にとってすら極めて不明確で、予測可能性が低いため、その該当性は、限定的に捉えられなければならない。

ア-イ

本件においては、P5の事務所にはNC旋盤機械が多数存在し、プログラミング作業や機械の修理作業が必要な状況にあったため、事業主の業務指示一つで、原告の担う作業が明確に資格外活動に該当しない活動になり得る状況であった。また、原告が実際に従事したのは、4台の旋盤機械を操作し、精密な継ぎ手の加工及び加工後の製品の検査をする作業で、必ずしも単純作業とはいえないものである上、原告自身は、図面を正確に理解して製品ごとに異なる検査器具を使って測る必要があったことなどから、上記作業が単純作業であるとは全く考えていなかったものである。さらに、原告は、P1に入社した後の研修期間に機械の修理及び調整を担当し、その後もプログラミングに加えて機械の操作、修理及び調整を担当していたこと、P2においても修理及び調整を担当していた経験があったことから、入社後一定程度は幅広い業務を担当することが許容されるという認識でいた一方で、P5での就労については、職務内容が不明確で契約書等も交付されておらず、原告は正式な契約に至っていたとさえ認識していなかったものである。

以上によれば、原告のP5での就労が資格外活動に該当するという処分理由は極めて不十分であり、本件認定に根拠はない。

イ-ア

上記アのとおり、「技術」の在留資格に見合う活動は明確ではない上、在留資格の取消しの場合と退去強制令書の発付の場合との不利益の違いを踏まえれば、「専ら行っていることが明らかに認められる」者の解釈は厳格に行うべきであり、その要件が満たされるためには、当該外国人の在留資格に対応する活動と現に行っている就労活動等との関連性、当該外国人が当該就労活動等をするに至った経緯、当該就労活動等の状況、態様、継続性や固定性等を総合的に考慮して、当該外国人の在留目的である活動が既に実質的に変更されてしまっているということができる程度にその就労活動等が行われていることを要するものと解するのが相当である。

イ-イ

本件においては、①P5には機械のプログラミング等の仕事が存在し、原告は、使用者の業務指示次第では「技術」の在留資格に対応する活動を行うことが可能であったこと、②原告は、平成22年11月29日に来日してから平成26年7月17日にP2を退職するまでの間、間断なくプログラミング作業に従事していた一方で、原告がP5で就労していた期間は1か月弱で、労働条件等も示されず、試用期間中であると説明されていたこと、③原告の妻には通院が必要であった上、原告は家賃等の生活費の支払もする必要があったこと、④同年9月3日から同月29日までの間は原告がP2に復帰できるか否か不明であったこと、⑤原告は、同日には、P5での稼働状況に疑問を抱き、退職を申し出ていたことなどによれば、仮に、原告がP5において従事した職務内容が「技術」の在留資格に見合わないとしても、その活動は暫定的なものであったことが明らかであり、稼働期間が1か月に満たないことも踏まえれば、原告の資格外活動には、継続性や固定性が全く認められない。

したがって、本件においては、原告の在留目的である活動が既に実質的に変更されてしまっているということができる程度にその就労活動が行われているなどということはできない。

以上によれば、原告は、入管法19条1項の規定に違反して就労活動等を「専ら行っていることが明らかに認められる」ということはできず、入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当することはできないから、本件認定には誤りがあるというほかなく、違法な認定として取消しを免れない。

また、本件認定が違法である以上、本件認定が適法であることを前提とした本件裁決も違法であるから取消しを免れず、さらに、本件裁決が適法であることを前提とした本件処分も違法であるから取消しを免れない。

第3 当裁判所の判断

1 事実認定

前記前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によると、次のとおりの事実を認めることができる。

(1) 原告が大学を卒業するまでの経緯

原告は、ベトナムで生まれ育ち、P6大学において機械工学を専攻し、平成20年(2008年)8月11日、24歳で同大学を卒業し、機械工学の技師の称号を得た。原告は、同大学において、プログラミングの実技を学んだほか、材料工学、測量工学、電子工学、機械の信頼性本位、機械のメンテナンスと修理技能、「数で操縦機械とCNC技能」(弁論の全趣旨によれば、「NC機械とCNC(Computer Numerical Cotrol、コンピュータ数値制御)技能」という意味と解される。)などの科目を履修した。(甲14、22、原告本人、弁論の全趣旨)

(2) 原告の本邦における就労状況等

原告は、その後、ベトナムの会社において、機械のプログラミングの書き換え、機械自体の修理・メンテナンス等を担当する技術者として勤務したが、技術者としての能力を更に高めるためにP1に転職することとし、平成22年11月29日に本邦に上陸した。原告は、それまで塗装機械を取り扱ったことがなかったため、P1において、まず、塗装機械の取扱いなどについて学んだ上、プログラミング作業についての指導を受け、入社後四、五か月を経て、一人でプログラミング作業を担当することとなった。しかし、原告は、P1の仕事場の環境が身体に良くないと考え、平成24年1月31日、P1を退職し、同年2月2日、P2と雇用契約を締結し、「トムソン金型プレス機の裁断パターンデータのプログラミング、データベースの管理を含む生産品質管理及び操作全般と修理を含むメンテナンス業務」に従事するため、P3に派遣された。原告は、それまで裁断機械を取り扱ったことがなかったため、P3においても、まず、少なくとも五、六か月をかけて、裁断機械全体の取扱い、工場全体における製品の製造の流れなどを学んだ上で、プログラミング作業等や機械の修理業務に従事した。(甲4ないし6、11、13、14、乙1、2、5、6、弁論の全趣旨)

原告は、平成24年12月、ベトナムにおいて婚姻し、平成25年4月から、ベトナム人の妻と共に、本邦において同居を開始した。その後、原告は、原告の妻が病気を患い、勤務先近くの複数の医療機関を受診したものの原因が判明しなかったため、ベトナムの病院で治療を受けさせようと考え、平成26年7月15日、P2を退職し、少なくとも1度は本邦に戻る予定で本邦の住居をP2から賃借したまま、同月17日にベトナムに一時帰国したが、結局、ベトナムでは有効な治療方法がなかったため、同年8月11日に日本に再入国し、P2から賃借していた住居の賃借を継続した。(甲1、13、14、乙1、14、原告本人)

(3) 原告が摘発されるに至った経緯等

原告は、再入国後、就職先を探したところ、知人から人材派遣業等を営んでいるP4の代表取締役であるP7を紹介されて連絡を取り、平成26年8月末頃にP7と面接をした。原告は、その際、P7に対して、原告の在留カードを見せて「技術」の在留資格を持っている旨の話をしたところ、旋盤の仕事ならあると言われて、P5に案内をされ、NC旋盤機械の紹介を受けるなどした。原告は、その際、P5に比較的新しい旋盤の機械が多数あったことを確認した上で、P4と雇用契約を締結することとし、同年9月3日からP5に派遣されることとなった。(甲14、乙16、26、27、原告本人)

原告がP5において従事していた作業は、①金属の素材をNC旋盤機械の中に入れて固定してドアを閉める、②NC旋盤機械を動作させると、あらかじめプログラミングで定められたとおりにNC旋盤機械が金属の素材を切削する、③ドアを開けて出来上がった製品を取り出し、製品の見本に照らして不一致がないか検査をするというもので、操る機械は4種類あり、これらの機械を並列的に設定、作動、調整をしながら同時に操るというものであった。また、上記NC旋盤機械のプログラミング作業は、P5の代表取締役又は専務取締役によって行われており、原告が上記プログラミング作業やNC旋盤機械の修理を行うことはなく、その予定もされていなかった。なお、P5の代表取締役及び専務取締役並びにP7は、原告が行っていた作業は、「技術」の在留資格を持たないベトナム人であっても、1週間で覚えられるような仕事であって単純作業であると評価し、原告の陳述書においても、「私が行っていた作業は、比較的簡単と言われるかも知れませんが、初心者が1週間で覚えられる作業だとは思いません。少なくとも指導を受けながらであれば、できるかもしれませんが、単独でやることはできないと思います。」と記載されている。(甲14、乙24ないし27、原告本人)

P7は、在留外国人である従業員に対して、原則として労働条件を示した契約書等を交付しておらず、P4に入社した原告から、労働条件を示した契約書を作成してくれるように依頼された際にも、取りあえず働いてもらってみた後に契約書を作成すると言って、これを交付しなかった。原告は、P5の他の従業員から、P4についてあまり良い会社ではないという話を聞いたこともあって、P4に対して不信感を持った。そこで、原告は、平成26年9月8日頃、ハローワークに登録をして職を探そうとしたほか、P2の担当者に電話をしてP3に復職したい旨伝え、P2の担当者がP3の担当者に連絡を取ったところ、考えたいから返事を待ってほしいと言われた。原告は、同月19日にも、P2の担当者及びP3の担当者に復職させてほしい旨それぞれ電話で連絡をしたが、P2の担当者から、同月24日、P3の担当の取締役が同月29日まで不在であることから返事を待つよう回答を受けた。一方で、原告は、同月22日頃に一、二度、P7に対し、同月末に退職するかもしれない旨相談をしていたところ、同月30日、入管法24条4号イ該当容疑で摘発された。(甲12ないし14、乙16、27、原告本人)

2 本件認定の適法性について

(1) 適法性判断の基準

入管法24条4号イ及び19条1項1号によれば、入管法別表第一の一の表、二の表及び五の表の上欄の在留資格をもって在留する外国人が、入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当するというためには、①当該外国人がその在留資格に対応する活動に属しない就労活動等(資格外活動)を行っており、かつ、②当該資格外活動が「専ら」行われており、しかも、③これらのことが「明らかに認められる」ことが必要である。そこで、これらの要件が認められるか否かについて、以下検討する。

(2) 原告のP5における就労が資格外活動に当たるか否かについて

原告は「技術」の在留資格をもって本邦に在留するものであるところ、「技術」の在留資格は、日本経済の国際化の進展に対応し、自然科学の分野の専門技術者を外国から受け入れるために設けられたものである。この在留資格に対応する活動は、本邦の公私の機関との契約に基づいて行う理学、工学その他の自然科学の分野に属する技術又は知識を要する業務に従事する活動であり(入管法別表第一の二の表「技術」の項の下欄)、上記業務は、大学等で理科系の科目を専攻して又は長年の実務経験を通して習得した一定水準以上の専門技術・知識を有していなければ行うことができない業務をいうものと解される(出入国管理及び難民認定法第7条第1項第2号の基準を定める省令(平成2年法務省令第16号)の表「法別表第一の二の表の技術・人文知識・国際業務の項の下欄に掲げる活動」の項の下欄一参照)。そして、これを機械工学の分野についてみれば、機械を設計し、あるいはその組立てを指揮する活動は、機械工学等の専門技術・知識を要する業務に従事する活動として「技術」の在留資格に該当するものであるが、単に機械の組立て作業に従事する活動は、自然科学の分野に属する技術・知識を必要とする業務に従事する活動とは認められないから、「技術」の在留資格には該当しないものと解される。

上記アを前提として原告の就労活動について検討すると、原告は、平成26年9月3日から、P5において就労し、NC旋盤機械を用いた金属素材の切削作業に従事し、報酬を受けていたものである。原告が従事していた作業は、4種類の機械を並列的に動作させるという点において難しい点があるものの、①作業自体は、NC旋盤機械の中に金属素材を固定してドアを閉めて旋盤機械を作動させ、作動後に出来上がった製品を検査するというもので、各作業自体が単純作業であることは否定できないこと、②P5の代表取締役及び専務取締役並びにP7も単純作業であると評価していること、③原告の陳述書にも、指導を受けながらであれば初心者であっても1週間でできるかもしれないことを前提とする記載がされていることなどによれば、原告がP5において従事していた作業は、少なくとも大学等で理科系の科目を専攻して又は長年の実務経験を通して習得した一定水準以上の専門技術・知識を有していなければ行うことができない業務ということはできない。また、NC旋盤機械のプログラミング作業やその修理は、「技術」の在留資格に対応する活動ということができるが、原告がこれらの作業を行うことはなく、その予定もされていなかったのであるから、原告が行っていた作業が、「技術」の在留資格に該当するものということはできない。

これに対し、原告は、「技術」の在留資格に見合う活動の意義は、不明確で予測可能性が低いため、その該当性は限定的に捉えられなければならない旨主張するが、それらの事情は、「専ら行っていることが明らかに認められる」に該当するか否かを判断する際の一事情として考慮すべきであって、上記イの判断を左右しない。

したがって、原告のP5における就労は資格外活動に当たると認められる。

(3) 当該資格外活動を「専ら行っている」ことが「明らかに認められる」といえるか否かについて

入管法は、本邦に在留する外国人の在留資格は、別表第一又は第二の上欄に掲げるとおりとした上、別表第一の上欄に掲げる在留資格をもって在留する者は、当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる活動を行うことができ、別表第二の上欄に掲げる在留資格をもって在留する者は、当該在留資格に応じそれぞれ本邦において同表の下欄に掲げる身分又は地位を有する者としての活動を行うことができるとし(2条の2第2項)、また、入国審査官が行う上陸のための審査においては、外国人の申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく、別表第一の下欄に掲げる活動又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動のいずれかに該当することを審査すべきものとしている(7条1項2号)。これらによれば、入管法は、個々の外国人が本邦において行おうとする活動に着目し、一定の活動を行おうとする者のみに対してその活動内容に応じた在留資格を取得させ、本邦への上陸及び在留を認めることとしているものと解される(最高裁平成11年(行ヒ)第46号同14年10月17日第一小法廷判決・民集56巻8号1823頁参照)。

そして、入管法が、①既に一定の在留資格を有する外国人が、現在有する在留資格により許容される活動以外の就労活動等を行うことを原則として禁止し、その例外として、資格外活動が認められる場合であっても、その範囲は、在留資格に対応する活動の遂行を阻害しない範囲に限定されていること(19条1項、2項)、②在留資格を有する外国人が、本来の在留目的の活動を変更しようとする場合には、在留資格の変更の許可を受けることができると定めていること(20条1項、2項)、③別表第一の上欄の在留資格をもって在留する者が、当該在留資格に対応する活動を継続して3か月以上行わないで在留していることが判明した場合には、法務大臣は、当該外国人が現に有する在留資格を取り消すことができると定めていること(22条の4第1項6号)などからすると、入管法は、別表第一の上欄の在留資格をもって在留する外国人は、本来その本邦において行おうとする一定の活動についての在留資格該当性が認められ、その認められた一定の活動を行うべき者として上陸が許可されたものであるから、その現に有する在留資格に対応する活動をその在留期間中一貫して行って在留することを基本としているものと解される。

他方で、入管法は、単に19条1項の規定に違反して就労活動等を行ったことのみをもって直ちに退去強制事由とはしておらず(24条4号イ)、退去強制事由に当たるかどうかについては、更に個別の事情を検討し、19条1項の規定に違反して就労活動等を専ら行っていると明らかに認められる者に該当するかどうかの判断をすることを要求しているものということができる。

このような入管法の趣旨に鑑みれば、入管法別表第一の一の表、二の表及び五の表の上欄の在留資格を有する外国人が、資格外活動を「専ら行っている」と認められ、入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当するというためには、当該外国人の在留資格に対応する活動と現に行っている就労活動等との関連性、当該外国人が当該就労活動等をするに至った経緯、当該外国人の認識、当該就労活動等の状況、態様、継続性、固定性等を総合的に考慮して、当該外国人の在留目的である活動が既に実質的に変更されてしまっているということができる程度にその就労活動等が行われていることを要するものと解するのが相当である。また、「明らかに認められる」(入管法24条4号イ)とは、証拠資料、本人の供述、関係者の供述等から入管法24条4号イに定める資格外活動を専ら行っていることが明白であると認められることを意味すると解される。

これを本件について見ると、原告は、P5においてNC旋盤機械を操って金属素材を切削し、測定していたものであって、これらの作業が、大学等で理科系の科目を専攻して又は長年の実務経験を通して習得した一定水準以上の専門技術・知識を有していなければ行うことができない業務に該当しないことは、前記(2)で判示したとおりである。もっとも、NC旋盤機械の操作は原告が大学で履修した科目と深い関連性を有する上、前記(2)イのとおり、NC旋盤機械のプログラミング作業や修理は「技術」の在留資格に対応する活動というべきであり、原告はP5に就職する前にはこれらの作業を行っていたのであるから、NC旋盤機械の操作自体も、原告が有する専門技術・知識と少なからず関連性を有するものと評価すべきである。

また、原告は、①P5で業務を開始した際に、P7に対して、労働条件を示した契約書を作成してくれるように依頼したが、上記契約書を得ることができなかったこと、②P1やP3においては、就職した当初は、機械全体の取扱い、工場全体における製品の製造の流れを学ぶなどしていたこと、③日本語にはあまり習熟していないこと(乙14、原告本人及び弁論の全趣旨により認められる。)、④平成26年9月30日の時点においてはP5で働き出してから1か月も経っていなかったことなどを考慮すれば、原告が、同日の時点において、P5において将来どのような業務を行うことになるのかについて確定的に認識していたとはいい難い。

さらに、原告は、従前勤務していたP2から住居を賃借したままの状態で、平成26年9月8日にハローワークに登録をした上、P2の担当者に対して、従前の派遣先であるP3に復職させてほしい旨打診したほか、同月19日にはP2の担当者に加えてP3の担当者に対しても復職させてほしい旨打診しており、P2の担当者からは同月29日までP3の担当の取締役が不在であることから返事を待つよう回答を受けていた一方で、P4に対しては、同月末に退職するかもしれない旨相談をしていたものであって、原告については、同月末日までにP5における就労が終了する蓋然性が相当程度認められるというべきであり、P5における就労について継続性、固定性があるともいい難い。加えて、証拠(甲14、乙16、原告本人)によれば、原告は、名古屋入管特別審理官による口頭審理及び本件訴訟において、「P5からは試用期間中と説明されていた」、「平成26年9月25日頃に、P7に電話をして仕事を辞める旨連絡したところ、あと1週間働かないと給料を払えないと言われたため、P7との間で同年10月1日にP4を退職する旨合意した」旨供述していることが認められ、これらの原告の供述は、P7の供述調書(乙27)と一致しない部分があるものの、同供述調書以外に原告の供述に反する証拠もなく、P7が他の在留外国人である従業員に対して、原則として労働条件を示した契約書等を交付していなかったことなども併せて考慮すれば、原告の供述を信用できないとまで評価することはできない。

なお、原告が、P4に入社し、P5で働き出したのは、仕事を探すために友人からP7を紹介されたためであるが、その点において特に原告に責められるべき点があるということはできない。

以上の事情を総合的に考慮すれば、原告について、その在留目的である活動が既に実質的に変更されてしまっているということができる程度にP4及びP5における就労を行っていると評価することは困難であり、原告が資格外活動を「専ら行っている」ことが「明らかに認められる」ということはできない。

これに対し、被告は、①在留外国人が、本来の在留資格に対応する活動を全く行っておらず、資格外活動のみを専ら行っているような場合については、特段の事情がない限り、原則として資格外活動を「専ら行っている」と解すべきである、②原告が試用期間中と説明されていたとの証拠はない、③原告がP2への復職を希望し、P4への退職を申し出ていたとしても、それまでの間に資格外活動に従事し、これが在留資格に対応した活動から実質的に変更されたと評価できる程度にされていれば、退去強制事由に該当する旨主張する。

しかし、上記①の点については、「専ら行っている」という文言の意義を被告が主張するとおりに解釈すべき根拠は見当たらず、入管法の趣旨に鑑みると、在留資格を有する外国人が資格外活動を「専ら行っている」と認められるためには、当該外国人の在留資格に対応する活動と現に行っている就労活動等との関連性、当該外国人が当該就労活動等をするに至った経緯、当該外国人の認識、当該就労活動等の状況、態様、継続性等を総合的に考慮して、当該外国人の在留目的である活動が既に実質的に変更されてしまっているということができる程度にその就労活動等が行われていることを要するものと解するのが相当であることは、前記アで判示したとおりである。

上記②の点については、原告が資格外活動を専ら行っていたことが明らかであることについては、被告が主張立証すべきものである上、むしろ、前記1(3)ウのとおり、原告がP7に対して労働条件等を記載した契約書の交付を依頼したものの、これを得ることができなかった事実が認められるのであるから、上記ウの判断を左右するものではない。

上記③の点については、前記(3)イで摘示した各事実によれば、原告のにおける就労活動が、「技術」の在留資格に対応した活動から実質的に変更されてしまっている活動であるとまでいうことはできない。

(4)適法か否かについて

以上によれば、原告が入管法24条4号イ所定の退去強制事由に該当するということはできないから、本件認定には誤りがあるものというほかなく、違法な認定として、取消しを免れないというべきである。

3 本件裁決及び本件処分の適法性について

(1) 裁決の適法性

本件認定が誤ったものである以上、原告の入管法49条1項に基づく異議の申出には理由がないとした本件裁決も、取り消されるべきである。なお、主任審査官は、法務大臣から異議の申出には理由がないとの裁決の通知を受けたときは、速やかに退去強制令書を発付しなければならないものとされ(入管法49条6項)、そうすると、本件認定が違法として取り消されても、本件裁決が取り消されない限り、本件処分の効力を否定することはできないものと解されるから、本件認定の取消請求が認容されることによって、本件裁決の取消しを求める訴えの利益が失われることはないというべきである。

(2) 処分の適法性

そして、本件裁決が取り消される結果、本件処分もその前提を欠き、違法なものとなるから、取消しを免れない。

第4 結論

よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれらをいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決する。

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