過去に日本に在留していた外国人が帰国し、その後新たに在留資格認定証明書交付申請をした場合、過去の在留中における不正な活動は考慮されるのでしょうか?
例えば、このような事案です。在留資格「留学」を有する外国人Aさんは認められない資格外活動を行っており、在留期間更新不許可となったので母国へ帰った。そして母国の大学に入学し卒業した後に日本で働くために在留資格「技術・人文知識・国際業務」の在留資格認定証明書交付申請をした。この場合、入管側は在留資格「留学」時の違法な資格外活動を考慮して、在留資格「技術・人文知識・国際業務」の在留資格認定証明書交付について不許可処分できるのでしょうか?
結論の先取り
答えは、できない です。
在留資格認定証明書交付の不許可処分にあたっては、異なる在留資格を保有している過去の在留歴を考慮すべきではなく、新たに求める在留資格が要件に適合し、かつ、真実であれば許可処分をしなければなりません。
つまり上記の事案の場合、Aさんの新たな在留資格認定証明書交付申請に対して、入管側は過去の違法な資格外活動を考慮に入れてはいけません。Aさんが在留資格「技術・人文知識・国際業務」の要件に適合し、かつ、それが真実である事のみを判断して許可不許可の判断をしなければなりません。
この結論について、法的根拠となる入管法・入管法施行規則と、戦略ツールとなる裁判例・審査要領・通達などを用いて解説します。
法的根拠と戦略ツール
下記に解説で用いる法的根拠と戦略ツールとなる法文・判例文等について紹介します。
そこまで詳しく理解する必要のない方は解説まで読み飛ばしても構いません。解説だけ読んでいただいてもおおよその主旨と結論はご理解いただけるように記載します。
一方、入管手続きに直面している方は一読して頂いた方が良いかと思います。なぜなら下記に紹介する文章は、入管手続きにおける絶大な武器になるからです。
入管手続きは単なる決まった様式の提出ではありません(単純な手続きを除く)。法律・判例・通達等を武器に論理的かつ戦略的に行政側を説得し、在留について許可をするべきであることを理解してもらう。それが真の入管手続きだと私は考えます。
以下、入管法・入管法施行規則・裁判例・審査要領・通達について紹介します。なお、読みやすいように適切に記載を変更しております。
- ①入管法7条の2(在留資格認定証明書)
- 法務大臣は、法務省令で定めるところにより、本邦に上陸しようとする外国人から、あらかじめ申請があつたときは、当該外国人が前条第一項第二号に掲げる条件に適合している旨の証明書を交付することができる。
- ②入管法7条、1項2号(入国審査官の審査)
- 申請に係る本邦において行おうとする活動が虚偽のものでなく、別表第一の下欄に掲げる活動又は別表第二の下欄に掲げる身分若しくは地位を有する者としての活動のいずれかに該当し、かつ、別表第一の二の表及び四の表の下欄に掲げる活動を行おうとする者については我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情を勘案して法務省令で定める基準に適合すること。
- ③入管法施行規則6条の2、5項(在留資格認定証明書)
- 在留資格認定証明書交付申請書の申請があった場合には、地方入国管理局長は、当該申請を行つた者が、当該外国人が法第七条第一項第二号 に掲げる上陸のための条件に適合していることを立証した場合に限り、在留資格認定証明書を交付するものとする。ただし、当該外国人が法第七条第一項第一号 、第三号又は第四号に掲げる条件に適合しないことが明らかであるときは交付しないことができる。
- ④法務省通達5964号、8の(2)
- 在留資格認定証明書の交付や上陸許可のような羈束行為については、法令が明示する要件以外の要件は一切あり得ない。
- ⑤東京地裁平21.10.16判決(在留資格認定証明書不交付処分取消請求事件)
- 原告(外国人女性)の過去の本邦滞在状況に問題があったとしても、原告が「興行」の在留資格で我が国に滞在していた時期に係る事項であり,本件申請(今回の申請は在留資格「文化活動」)とは直接関わりのない事項である。被告(入管側)の主張は,結局のところ,過去の滞在状況に疑わしい点があるから,今回の申請も疑わしいという趣旨のものであると考えられるが,本件申請は、過去の在留とは異なる在留資格に基づく申請である上,過去において原告を招へいした興行者と本件申請に係る受入先である本件倶楽部とでは受入機関としての信頼性に明らかな相違があるというべきであり、採用することはできない。
解説
まず①~②の入管法によると、申請に係る日本において行おうとする活動が「虚偽のものでなく」、「別表第一に掲げる活動のいずれかに該当し」、「一部の場合は法務省令で定める基準に適合すること」の3つの条件に適合すれば【②】在留資格認定証明書を交付することが出来る。【①】としています。
つまり在留資格認定証明書交付の条件は下記であると法律に定められております。
申請に係る日本において行おうとする活動の、
「活動の真実性」
+
「在留資格該当性」
+
「上陸許可基準適合性(一部の活動のみ)」
(在留資格該当性とは、入管法別表第一に定める活動内容に該当するかどうかを意味しています。外国人が在留資格を認定されるためには、在留資格に適合した活動内容を日本で行わなければならないということです。例えば、在留資格「法律・会計業務」の場合は、弁護士業務や司法書士業務をしなければならないという事です。また、上陸許可基準適合性とは一部の在留資格に対して入管法が認定の基準を定めており、その基準に適合するかどうかを意味します。例えば「技術・人文知識・国際業務」の場合は、学歴や実務経験が基準として設けられております。)
そして③入管法施行規則・④法務省通達によれば、上記の条件に適合した場合、在留資格認定証明書を交付するものとする。【③】そして在留資格認定証明書の交付や上陸許可のような羈束行為については、法令が明示する要件以外の要件は一切あり得ない。【④】としています。
この2つから読める通り、在留資格認定証明書交付の判断要素として、前述した条件以外は「一切なく」、そして「交付する」としています。(「交付できる」ではありません)
これらの事から、「申請に係る日本において行おうとする活動」ではない過去の在留歴を考慮して、在留資格認定証明書交付について不許可処分をすることは違法であり、通達にも反します。(なお通達とは、法務省内で決めた実務のルールのようなもので、法律のような拘束力はありません。しかし、実務上のルールを申請者側から入管側に説明する事も時には必要であり、すべきです。)
最後に判例を紹介します。裁判の判決は法律に対する一種の答えのようなもの絶大な説得材料となります。(正確には判例変更等もあり、判決が正解いうわけではありませんが。)
⑤の在留資格認定証明書不交付処分取消請求事件は、過去に在留資格「興行」で在留していたロシア人女性(原告)が入国管理局長(被告)に対して在留資格「文化活動」の在留資格認定証明書の交付申請したところ、不交付処分を受け、その処分に対して原告が取消訴訟を提起したという事案です。
そして、被告は不交付処分の理由のひとつとして「原告が出演していた店舗で外国人女性が接客行為をしていた事から、原告も同様に接客行為をしていたと予測でき、接客行為は活動内容に違反するもので、つまり原告の過去の本邦滞在状況に問題があった」ということを主張しました。
これに対する判決文は、「被告の主張は過去の滞在状況に疑わしい点があるから、今回の申請も疑わしいという趣旨のものであると考えられる」が、「本件申請は、過去の在留とは異なる在留資格に基づく申請であるから ~中略~ (被告の主張)は採用することはできない。」としています。
要するに、在留資格認定証明書交付の判断条件の一つである「活動の真実性」に対して過去の在留歴を考慮して疑わしいという入管側の主張を、裁判官は「過去の在留状況は今回の申請に関係がない」という理由で認めなかったということです。
補足
過去の犯罪歴について
上記の通り、在留資格認定証明書交付の不許可において「活動の真実性」という要件については過去の在留歴は考慮されないと記載しました。
しかし、過去の犯罪歴等は考慮されます。
法的根拠は、③入管法施行規則但し書きに「1号・3号・4号に適合しない場合を除く」としており、4号には特定の過去の犯罪歴を定めています。
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