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過去に犯罪等をしてしまい上陸拒否事由に該当してしまった外国人が在留資格認定証明書交付申請をした場合、許可処分を受けることが出来るでしょうか?

平成21年以前までも、上陸拒否事由に該当した外国人に対して在留資格認定証明書の交付がされてきた事例はありました。

しかし平成21年の入管法改正の際に加えられた1つの条文「上陸拒否の特例」により、大きく変わりました。

 

結論の先取り

答えは、できる です。

上陸拒否事由に該当した外国人からの在留資格認定証明書交付申請の審査にあたって、その外国人に一定の理由があると認められる場合は、特別に交付することが出来ます。

前述した通り従来から交付がされる事例は存在していましたが、平成21年に法律に明記されることによって、ブラックボックスだった判断要素に光が見え、交付に向けて戦略も立てやすくなります。

この結論について、法的根拠となる憲法・入管法・入管法施行規則と、戦略ツールとなる法務省公表資料などを用いて解説します。

法的根拠と戦略ツール

下記に解説で用いる法的根拠と戦略ツールとなる法文・公表資料等について紹介します。

そこまで詳しく理解する必要のない方は解説まで読み飛ばしても構いません。解説だけ読んでいただいてもおおよその主旨と結論はご理解いただけるように記載します。

一方、入管手続きに直面している方は一読して頂いた方が良いかと思います。なぜなら下記に紹介する文章は、入管手続きにおける絶大な武器になるからです。

入管手続きは単なる決まった様式の提出ではありません(単純な手続きを除く)。法律・判例・通達等を武器に論理的かつ戦略的に行政側を説得し、在留について許可をするべきであることを理解してもらう。それが真の入管手続きだと私は考えます。

以下、入管法・入管法施行規則・憲法・法務省公表資料について紹介します。なお、読みやすいように適切に記載を変更しております。

①入管法5条の2(上陸の拒否の特例)
法務大臣は、外国人について、一定の上陸拒否自由がある場合であつても、当該外国人に法務省令②で定める場合において、相当と認めるときは、法務省令②で定めるところにより、当該事由のみによつては上陸を拒否しないこととすることができる。
②入管法施行規則4条の2、1項2号(上陸の拒否の特例)
外国人に在留資格認定証明書を交付した場合であつて、特定の上陸拒否事由に該当することとなつてから相当の期間が経過していることその他の特別の理由があると法務大臣が認めるとき。
③入管法施行規則4条の2、2項(上陸の拒否の特例)
①により上陸を拒否しないこととしたときは、当該外国人に別記第一号様式による通知書を交付するものとする。
④憲法14条、1項(平等原則)
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
⑤法務省公表資料、平成28年3月18日(上陸特別許可事例公表)
参考リンク:「上陸を特別に許可された事例及び上陸を特別に許可されなかった事例について」の公表
(これはあくまで公表資料であって入管側に対する拘束力はない。しかし、④憲法14条(平等原則)との併用により、武器となる。つまり、過去の許可事例と同様の状況に至った外国人が不許可となった場合、平等原則に反するという主張が可能なものとなる。)

 

解説

上陸拒否事由に該当した外国人を、特別な事情がある場合に救済的に上陸を許可する法律に基づく手段としては「上陸特別許可」という制度が過去からずっとありました。下記に参考となる条文を紹介します。(読みやすいように一部整えています。)

入管法12条1項(法務大臣の裁決の特例)
口頭審理において上陸が認められなかった場合に外国人がした異議の申し立ての裁決に当たつて、法務大臣は異議の申出が理由がないと認める場合でも、当該外国人が法務大臣が特別に上陸を許可すべき事情があると認めるときは、その者の上陸を特別に許可することができる。

 

上陸拒否事由に該当した場合、原則は在留資格認定証明書が交付されませんので、外国人の住む国の日本公館でビザ(査証)取得して日本に入国することになります。そして、日本に入国する際に入国審査官の審査を受ける事になりますが、そこでもやはり上陸は許可できないとなった場合、「入国審査官」→「特別審理官」→「法務大臣」の3段階の審査を経て、日本に在留する特別な事情がある外国人に対して許可を与えられてきました。これがいわゆる上陸特別許可の流れです。

しかし、上陸拒否事由に該当する外国人でも、上陸拒否事由の内容が軽微で、かつ、明らかに特別な事情があり、そして上陸特別許可が認められるであろう外国人に対しては、上陸特別許可の審査を出来るだけ円滑にしたいという考えが入管側にはあります。

そこでこのような上陸特別許可が認められるであろう外国人に対しては、当該外国人の代理人等が日本で申請すれば、実務上としては従前から「7-1-4」と記載された在留資格認定証明書が交付されておりました。この「7-1-4」は、入管法7条1項4号を意味しています。これを有する外国人は円滑に上陸特別許可を受けることが出来るようになり、いわば上陸特別許可を前提とした在留資格認定証明書と言えます。

そして平成21年に入管法が改正され、上陸拒否事由に該当する外国人に対して在留資格認定書の交付を認める内容が条文化しました。法的根拠と戦略ツールにて紹介した①入管法5条2項・②入管法施行規則4条の2、1項2号によると、「在留資格認定証明書を交付された外国人が、上陸拒否事由に該当する場合であっても特別な事情があると法務大臣が認めた場合は、上陸拒否事由をもって上陸の拒否しない事とすることができる。」という内容になっております。

これは上陸特別許可ではなく、「上陸拒否の特例」と呼ばれており、平成21年以前と実務上で変わった点は下記の通りです。

  • 入国審査管→特別審理管→法務大臣という3段階の審査を経る必要がなくなった。(条文に法務大臣が認めた場合と記載されている意味は、入管側内部の手続きです。)
  • 「7-1-4」ではなく「5-1-○」と記載された在留資格認定証明書が交付される。(入管法5条1項の各号によって○が変わる)
  • 上陸拒否事由のみによって上陸を拒否しない旨の通知がされる

要するに上陸拒否の特例が認められ在留資格認定証明書を交付された外国人は、上陸拒否事由該当者ではなくなったと言えます。

ここまでは「上陸拒否の特例とは」という内容である一般的な議論について解説しましたが、もう少し深くお話したいと思います、

この「上陸拒否の特例」制度は、従前に実務上されてきた上陸拒否事由該当者に対する「7-1-4」在留資格認定証明書の交付を受ける場合と比べ、要件緩和という意味はありません。3段階審査を得る必要がなり手続きが円滑になったただけで、法改正によるメリットは表面上はあまり大きくないと見えます。

しかし平成21年入管法法改正による「上陸拒否の特例」は、実は多大な影響をもたらすと考えております。

というのは、従前されてきた上陸特別許可は法務大臣に一任されており、その判断は法務大臣の裁量による部分が大きいものでした。そして実務上されてきた「7-1-4」在留資格認定証明書交付に関しては、法律上明記されていない実務レベルのものであり、交付に関する基準は明確ではないと考えられます。

しかし「上陸拒否の特例」が条文上に明記されたことによって、在留資格認定証明書を交付する入国管理局担当職員の一定の判断が介入します。この場合、各担当職員の判断がバラバラであるわけにはいかないので、やはり審査基準・審査要領というものが必要となります。これらまでは公表されておりませんが、上陸特別許可や上陸拒否の特例の不透明性に対して各方面からの要請もあって入管側も公表する方向で動いております。

現に平成28年に法務省から報道公表資料として上陸特別許可事例が公表されております。(「上陸を特別に許可された事例及び上陸を特別に許可されなかった事例について」の公表

今回の公表では、上陸を特別に認める外国人の事情を婚姻関係に絞っています。そして「日本人と結婚している場合」「正規在留外国人と結婚している場合」の類型について許可された事例と不許可された事例について公表されています。この公表については今後追加していくようです。

そして最後に平等原則についてお話します。

例えば上陸特別許可や上陸拒否の特例の場合、当該外国人がもつ特別な事情を認めるかどうかは裁量の幅が広いと言えます。つまり、認めるか認めないかはある程度、行政側の自由であるということです。

しかし憲法14条を受ける形で派生した平等原則によって一定の制限がなされます。その制限とは「合理的理由がないにもかかわらず不平等な行政処分をしてはならない」ということです。

この平等原則と公表された事例を用い、また公表されていない審査基準を立証することにより、入管側を説得することは非常に有効な手段です。

 

 

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